保留者ゼロ。なぜ中日の選手たちは「大幅減俸」を受け入れたのか (5ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

 契約更改は対面交渉だ。

 最近では代理人に任せたいという声も根強いが、直に球団の編成責任者から「戦力として必要だ」と声をかけられれば、選手というのは意気に感じるものだと思う。過去、勝ち続けてきたからこそ上がり続けてきた年俸を、負けたから下げるというのは、酷なようでいて実はシンプルな発想だ。井端、山本昌、山内、岩田、朝倉の5人に対する減超提示も、選手側に自由契約を選択する権利があることを覚悟の上で行なったわけで、考えてみれば落合GMにとってもリスクを背負った決断である。井端に対する大幅なダウン提示も落合GMの中にはいろんな思惑があったのかもしれないが、結果だけを見れば、ジャイアンツで働き場所を失っていた小笠原道大と、ドラゴンズで旧年俸ほどの居場所がなくなりそうになっていた井端との事実上のトレードを実現させることによって、ふたりのベテランを蘇(よみがえ)らせるかもしれないきっかけを作ったことだけは間違いない。ジャイアンツが井端を獲得できたのは年俸のベースが数千万円だったからこそで、まさか、そこまでを見据えての減超提示だったのかと思わせるところが、落合博満という人物の恐ろしさでもある。

 合理的で、反論してもムダだと思わせるだけの知識を持ち、言葉巧みなGMから、「もう一度、勝つためにはお前の力が必要だ」「勝てば年俸も上がるんだ」と言われれば、減超提示に同意した選手たちの気持ちもわかる気がする。まして、メディアを通してみせるのとはまったく違う顔を見せて、選手たちとともに戦い、勝って年俸を上げてもらってきた元監督の言うことだ。その言葉には、選手にパワハラだとは感じさせない歴史の積み重ねがあるのだろう。

 ドラゴンズに、そして落合GMに、勝つために必要とされ、もう一度、年俸アップを勝ち取ってやるというモチベーションを与えられたドラゴンズの選手たち――落合博満のチーム再建計画は、すでに第一幕を終えたのかもしれない。

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