苦しい時を経て前に向かうヌートバー 大谷翔平、ダルビッシュらに刺激を受け、終盤戦は好調を維持

  • 杉浦大介⚫︎取材・文 text by Sugiura Daisuke

9月に入り調子を取り戻してきたヌートバー photo by AP/AFLO9月に入り調子を取り戻してきたヌートバー photo by AP/AFLO

侍ジャパンが世界一を奪還してから約2シーズンが経過しようとしている。そのWBC優勝の立役者となったラーズ・ヌートバーは、今シーズン、ケガに悩まされ、本来の力を発揮できず、長く苦しい時間を過ごしてきた。しかし、9月に入ってからは好調を維持。左打ちの貴重な外野手としての持ち味は変わらず、セントルイス・カージナルスには貴重な存在だ。

大谷翔平、ダルビッシュ有たちの活躍に刺激を受け、ヌートバーは再び前に向かい始めている。

【ケガで苦しんだ2024年シーズン】

 いつも快活なラーズ・ヌートバーらしさは、変わっていなかった。

 8月下旬、ニューヨークでのヤンキース戦で久々にセントルイス・カージナルスのゲームを取材すると、27歳になった日系人外野手は「久しぶりだね。今季初めてでは?」と笑顔で迎えてくれた。筆者と特別に親しくしてきたわけではなくとも、侍ジャパンの一員としてプレーした2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)前後に熱心に取材された日本メディアには、少なからず愛着を持っているのだろう。

 WBC優勝メンバーとなった仲間たちへの想いも以前のまま。ダルビッシュ有と一緒に撮った写真について問うと「彼に会えるのは、いつでもうれしい」と目を輝かせ、大谷翔平へのリスペクトももちろん隠そうとはしなかった。

「ここまで来たら翔平にはぜひとも50―50を達成してほしい。私も応援しているよ。歴史的なことだからね。私は(WBCで)彼の凄さを最前列で見たけど、今季もまた特別なシーズンにしてしまっているのは信じられないことだ」

 旧友たちの健闘を願うだけではなく、ヌートバー自身もシーズン終盤に来てペースを上げている。9月は打率.379、出塁率は.513と絶好調(現地時間15日現在)。カージナルスはすでにプレーオフ圏内に大差をつけられ、ポストシーズン出場は難しくなっている。それでも最後までシーズンを全力で戦い抜き、より優れた打者になってみせると誓っていた。

「日々できるのはユニフォームに袖を通し、競い合うことだけ。毎日、最善のパフォーマンスを目指すのが僕たちの仕事だから、今後もそれをやっていくよ」

 このように明るさを忘れないヌートバーだが、その一方で、今季が厳しいシーズンになっていることは否定できない事実でもある。9月は好調でも、シーズンを通した成績は打率.244、9本塁打と上質とは言えないもの。このように停滞する最大の要因になったのは、2度にわたるケガだった。

 キャンプ中に負った肋骨骨折で開幕から13試合を欠場すると、シーズン中にも脇腹のケガで36試合を休んだ。伸び盛りのはずの年齢で合計49試合も離脱してしまえば、インパクトに欠ける1年になったのも仕方ない。

 特に2度目のケガから復帰直後、7月は打率.238(63打数15安打)、8月は同.227(75打数17安打)と苦しんだ。常にポジティブなヌートバーだが、今夏の不振には故障の影響があったことは認めている。

「試合のなかでのリズム、タイミングが問題だった。その面では少し時間がかかってしまい、タフな時期だった。ただ、徐々にコンディションはよくなっているし、ベースボールの身体、リズムになっていっているとは思う」

 今季開幕前、ヌートバーはカージナルスと延長契約を結ぶのではないかという推測もあった。「Redbird Rants」というカージナルスのファンサイトでは、その契約が7年6800万ドルになると予想していたが、現時点ではそんな交渉が進むとは考えにくいのが現実である。WBCでの活躍を通じて、"たっちゃん"の愛称で日本でも人気者になった頃の勢いは、薄れた印象がある。

1 / 2

著者プロフィール

  • 杉浦大介

    杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)

    すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る