ドジャース世界一へのカギは走者・大谷翔平にあり マッカロー一塁コーチとロバーツ監督が説くその重要性
一塁ベース上でヘッドバンプする大谷翔平とマッカローコーチ photo by AFLOこの記事に関連する写真を見る
その長打力に注目が行きがちな大谷翔平だが、ロサンゼルス・ドジャースが抜け目ない強さを身につけるには、大谷の走塁をもっと活かす戦術が求められてくるのではないだろうか。
ここまでの戦いぶりでは、そう感じさせる場面もいくつか見られたが、ここでは大谷とのヘッドバンプで日本でもお馴染みのドジャースのマッカロー一塁コーチのコメントなどを中心に、ドジャースにおける大谷の走塁の重要性について、焦点を当ててみる。
【"投高打低"でカギを握る走塁】
4月21日(現地時間。以下同)、ロサンゼルス・ドジャースが10日間のホームスタンド(本拠地連戦)で3勝6敗と負け越した時、「今、打者として一番求められていることは何か?」と聞かれた大谷翔平は、シンプルにこう答えた。
「基本的にはチャンスメイクをすること。そしてチャンスで回ってきたら(ランナーを)還すこと。どこの打席、どこのチームであってもそこは変わらないかなと思います」
野球はチームプレーだ。後ろの打者のためにチャンスを作り、攻撃をつなげていければ、得点が生み出され、試合に勝てる。デーブ・ロバーツ監督も記者と話す時に「Move the ball forward」という言い回しをしばしば使う。直訳すれば「ボールを前に進める」だが、ニュアンスは、打者が打席で三振せずにボールを打ち返し、走者を次の塁に進めていくことを指す。
6月14日のカンザスシティ・ロイヤルズ戦、3対3の8回裏1死で一塁走者はムーキー・ベッツ。大谷の打席で1ボールのあと、ロイヤルズのウィル・スミス投手が素早い動きで牽制を試みたが悪送球となり、ベッツが二塁に進み、勝ち越しのチャンスが生まれた。大谷は2-2から外角スライダーを打って遊飛だったが、続くフレディ・フリーマンが1ボールから外角低めスライダーをセンター前に弾き返し4対3の勝ち越し。ドジャースは接戦をものにした。
しかしながら決勝打を打つまでのフリーマンは、初球に手を出しての凡打が続いていた。4回は1死一塁で、初球の外角直球をあっさり打って一ゴロ、6回は無死一塁で初球のカーブを打って浅い右飛。両方のケースで一塁走者だった大谷は、何もできなかった。この日のロイヤルズの先発は9イニング平均の奪三振が10以上の好投手コール・ラガンズで接戦は予想されていただけに、もう少し工夫があってもよかったのに、と思った。大谷のスピードと、フリーマンの選球眼にバットに当てる能力。いろんな作戦が可能なはずなのに、普通に打つだけではもったいない。
今季もMLBは極端な"投高打低"だ。6月14日の試合に入る前のリーグ全体の打率は.241、このままなら1968年(.237)以来の低い数字になる。深刻なのは、内野の守備シフトに制限を加え、走塁を活性化するための新ルールを定めて2年目になるのに、まったく得点増加につながっていないことである。得点は変更1年目の昨季から6.3%減少し、1チームあたり平均4.33点である。
ドジャースはチームOPS(出塁率+長打率)が.774で全体1位、95本塁打は3位とリーグ屈指のパワーを誇るが、好投手に当たればそう簡単に長打は打てない。ポストシーズンをにらみ、スピードを生かした野球にもっと取り組んでおく必要がある。監督もコーチ陣も、それは重々承知しているが、実行できているとは言えない。
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著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。