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【選抜高校野球】横浜高の新怪物・織田翔希の後を受けて躍動した奥村頼人 父親は知る人ぞ知る名指導者 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

【父はあの「下剋上球児」に一役】

 この奥村が語る父・倫成さんは、知る人ぞ知る高校野球指導者だ。現在は滋賀・八日市の監督を務めている。

 奥村監督は、ある高校の奇跡に大きく関与している。

 10年連続三重大会初戦敗退という弱小県立高校だった白山高校。その2年後の2018年夏に、まさかの甲子園初出場を果たしてしまった。

 白山の東拓司監督(現・昴学園)は当時、野洲の監督だった奥村監督を兄貴分と慕い、さまざまなノウハウを伝授されている。白山に赴任当初、部員が集まらないことに悩む東監督に、奥村監督はこんなアドバイスを送っている。

「最初は100人リストアップして、10人来てくれたら御の字やで。最初から15人とか来るわけないやん」

「ええか、レギュラーに声かけたって来てくれるはずがないやろ。最初に見るんはグラウンドやない。ベンチや。ベンチの端っこで一生懸命に声を枯らして応援してるヤツ。そういうヤツをくださいと言うんや」

 奥村監督は部員わずか10人程度だった野洲を一から建て直し、部員80人の強豪へと育て上げた実績がある。2012年夏の滋賀大会で準優勝。甲子園まであと一歩のところで涙をのんでいる。

 奥村監督は東監督に、選手勧誘の仕方から不祥事が起きた時の始末書の書き方まで、包み隠さず伝えている。東監督にとっては最大の理解者であり、恩人でもあった。

 白山の奇跡は『下剋上球児』というタイトルで書籍化され、2023年秋には同作を原案としてテレビドラマ化されている。

【自分も負けてないぞ】

 甲子園で勝利を挙げた奥村に父への思いを聞くと、淀みない口調でこんな答えが返ってきた。

「父は部員が少なく、雑草だらけの(グラウンドだった)県立高校を県準優勝まで育て上げた指導者なので、尊敬しています。父から言われてきたのは『言い訳は成長を止める』という言葉で、今も自分に刻んでいます。父から学ぶことはすごく多いです」

 奥村監督が今日の投球を見たら、何と言うと思うか。そんな質問が飛ぶと、奥村は不敵に笑って「フォアボールを出したことを怒っていると思います」と答えた。ちなみに、奥村の言う「フォアボール」とは、この日に許した唯一のランナーである。

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