【新車のツボ59】
スズキ・キザシ 試乗レポート
前回に続いて今回もスズキである。しかも、これはスズキの、いわゆるフラッグシップである。ただ、もしかしたら「こんなクルマ知らなかった」という人も少なくないだろう。ある意味で"幻のスズキ"である。
キザシが世界初公開されたのは2009年秋の東京モーターショー(以下、東モ)。キザシはスズキ初のDセグメント車(スバルのレガシィやマツダのアテンザに相当するアッパーミドル級)であり、スズキはそんな新しいフラッグシップを「スズキ、ここにあり!」と地元の東モで大々的に披露して、その勢いで世界中にドドーンと発売する予定だったのだろう。かつてトヨタが初めて世界の名門に真っ向勝負をいどんだレクサスみたく......。
ところが! このときの東モは前年のリーマンショックの余波で、海外勢がそろって欠席。"史上空前に盛り上がらなかった東モ!"になってしまった。キザシは一応スケジュールどおり登場したものの、世の倹約ムードもあって、ブースの片隅でひっそり展示。しかも日本では最初から"受注生産"とされた。まあ、もともとメイン市場はアメリカだったのだが、昨年には、今度はスズキの四輪事業そのものがアメリカから撤退......(泣)。
現在のキザシは国内での受注生産販売のほか、欧州・中東などでも売られているが、ハッキリいって行き場を失った感は否めない。国内での販売台数はなんと月間平均10台(!)ほど。そんななか、昨年には「キザシが覆面パトカーとして警察庁に1000台納入決定」というニュースが流れるや、「パトカーのほうが多いやんけ!」と一部マニアの間で話題になった。つまり、キザシはそのくらいに超カルトな存在なのである。
だが、キザシは前記のように、スズキにとって歴史的なフラッグシップであり、同社の技術とセンスを総動員したクルマである。実際のキザシも非常によくデキていて、「いいクルマをつくって世界を驚かせたい」というつくり手の夢と魂がこもった名品といってよい。
1 / 2
著者プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/