箱根駅伝王者・青山学院大が挑む8年ぶりの「三冠」 鬼門の出雲駅伝をいかに戦うのか?
今季はトラック長距離で好調を維持する黒田朝日 photo by千葉 格/アフロ
前回の箱根駅伝で改めてその強さを見せつけた青山学院大学。従来のメンバーに加え、強力な1年生も加わった今シーズンは、春のトラックシーズンから存在感を発揮。駅伝シーズンは、8年ぶりの主要大会「三冠」達成を目標に掲げている。
その初戦となるのが10月14日に行なわれる出雲駅伝。11月の全日本大学駅伝、1月の箱根駅伝とは異なり、短い距離での駅伝ゆえに、ひとつのミスが命取りとなる駅伝で、原晋監督が最も「鬼門」と位置付けている。
磐石の選手層を誇る今シーズンの青学大は、いかに戦うのか?
【春シーズンを象徴する4年生・鶴川の活躍】
やっぱり青学は強かったーー。
駒澤大が本命視されていた前回の第100回箱根駅伝。青山学院大は3区で太田蒼生がトップに立つと、そのまま逃げきり、2年ぶり7回目の総合優勝を達成した。
しかも今年度は、主力選手が多く残った。箱根で区間賞を獲得したメンバーでは黒田朝日(2区・3年)、太田(3区・4年)、塩出翔太(8区・3年)の3人。そのほかにも1区で好走を見せた荒巻朋熙(3年)、5区で実績のある若林宏樹(4年)、6区を走った野村昭夢(4年)が今季のチームに残っている。
原晋監督は、新年度が始まるにあたって、こう話していた。
「箱根駅伝については、普通に走れば青学が勝つ可能性は高いと思います。ただ、なにが起きるかわからないのが駅伝。油断のないよう準備を進めていきたいと思います」
学生たちにも油断はない。今年度の目標は、2016年度以来となる「三冠」。キャプテンの田中悠登も「狙っていかなければならない目標だと思います」と話し、重点施策をチーム内で徹底している。
「もう一度、青学が大切にしてきた『基礎』を重視していこうとチームで話をしました。ジョグの質、青トレ(独自のフィジカルトレーニング)、そして体のケア。春先も故障者が少なく、いい流れを作ることができたと思います」
今年度のトラックシーズンのアプローチは、「個々の能力を伸ばす」というもの。箱根駅伝に敗れたシーズンだと、ゴールデンウィークでさえも距離走を重視した合宿などを行なってきたが、今年はトラックのタイムをしっかり狙っていった。
なかでも好結果を出したのは、黒田兄(今年、弟の然が入学)だった。これまでは3000m障害を主戦場としていたが、5月の関東インカレ2部10000mでは青学大史上初の27分台をマークし日本人トップとなり、6月の日体大長距離競技会の5000mで13分29秒56をマーク。ロードに強いだけでなく、トラックでのスピードにも磨きがかかった。
しかし、黒田の上をいった選手がいた。4年生の鶴川正也だ。
鶴川は九州学院高(熊本)時代、東京農大二高(群馬)の石田洸介(現・東洋大)と世代ナンバーワンをめぐり、しのぎを削っていた。
当然、青学大でも1年生から主力になることが期待されていたが、ケガに悩まされ、駅伝の出場は昨年の出雲駅伝だけ。しかも6区アンカーを任されたが、区間8位に終わった。区間賞を獲得した駒澤大の鈴木芽吹(現トヨタ自動車)とは1分24秒もの大差をつけられてしまった。
不発。鶴川はこのレースの結果を深刻に捉えた。
「ショックでしたし、情けなかったです。そのあと、練習で無理をしたらケガをしてしまって。箱根駅伝にも出られず、最悪の冬でした」
実家のある熊本に帰りたいと考えたこともあったそうだが、最終学年に向けて気分を一新すると、今年5月の関東インカレ2部5000mで留学生たちを最後に突き放して優勝、そして7月に行なわれた日本選手権の5000mでは13分18秒51で4位。この記録は青学大記録にとどまらず、屋外レースの日本人学生歴代最高記録となった。4年目にして、ようやく本格化したのである。
「今年で大学生も終わりです。今年の駅伝ではチーム三冠、自分は区間賞を3つ取ります。見ててください」
そう話し、強気の姿勢を見せている。もし、鶴川が高校時代のような爆発力を駅伝で見せたとしたらーー。青学大は三冠に限りなく近づくことになる。
1 / 2
著者プロフィール
生島 淳 (いくしま・じゅん)
スポーツジャーナリスト。1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務しながら執筆を始め、1999年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る一方、歌舞伎、講談では神田伯山など、伝統芸能の原稿も手掛ける。最新刊に「箱根駅伝に魅せられて」(角川新書)。その他に「箱根駅伝ナイン・ストーリーズ」(文春文庫)、「エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは信じること」(文藝春秋)など。Xアカウント @meganedo