【やり投げ】打倒ディーン。絶好調・村上幸史は日本のエースに返り咲けるか (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Nakamura Hiroyuki

 淡々とした表情でこう話す村上は、「今回は投げる時に頑張らなかったのが良かった」と言い、走ってきた体をブロックするための左足が地面に付いてから、上半身や腕を始動させることができたという。投げ終わったあとのフォロースルーが小さな動きに見えたのも、動き出しからリリースまでの動きが素早くでき、やりが手を離れた時にはすべてがもう完了していたからだったのだ。

 ゴールデングランプリでは風の条件が悪い中、81m16で優勝したが「練習投てきは良かったので、81mを投げたあとの3投目は織田と同じように頑張らないでしっかり投げることを目標にしたが、記録を狙い過ぎて失敗してしまった」と反省。ディーンとの日本選手権の対決を意識しながら、「ここまではうまくいったが、ここからはしっかりと大きな課題を考えながらやっていかなければ。自分の年齢と経験を生かしながらやるのが、これから求められると思う」と改めて気持ちを引き締めていた。

 ここまでの状況を見れば、昨年ケガに苦しんで不本意な結果に終わった村上が、ディーン元気を相手に逆襲を開始したともいえるような結果だ。だが村上が目標にするのは、ただ単に日本のエースに返り咲くことだけではなく、日本のやり投げのレベルアップだ。

 以前も彼は「重さが800gのやりを扱う種目だからこそ、体格の劣る日本人でも勝負できる種目だ」と語っていた。自分ひとりだけではなく、出場のフル枠を使う3名での世界大会出場が目標だとも。

 そんな意味でいえば、日本選手権男子やり投げの見所は、村上と復調して来るだろうディーンの鍔(つば)ぜり合いだけではなく、ゴールデングランプリで僅かにラインを踏み出すファールながらも80m超の投てきをした新井涼平(国士館大)などが、81mのB標準記録を突破するかどうかだろう。

 複数の選手で競り合いながら、日本記録突破と世界への挑戦を果たしたいと考える村上。彼は33歳になった今でも、その進化を止めない。

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