世界のフェンシング史に「日本」の名を刻んだ東京オリンピック男子エペ団体の金メダル獲得 パリオリンピックにつながる確かな礎に (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【誇り高き種目を、日本が制した意味】

 エペはフェンシングの3種目のなかでも唯一得点の有効面が全身と、ルールもシンプルで見ている人もわかりやすい。スポーツ化される以前の「決闘」の雰囲気を持つフェンシングの原点と言っていい種目だ。本場のヨーロッパでは最も人気のある種目だからこそ、ヨーロッパ勢は、このエペにプライドを持っている。その歴史に、しかもオリンピックの舞台で、日本はその名を刻んだ。

 ピストの上で抱き合い、輪になってジャンプして喜びを爆発させた選手たち。

「加納が『これ、勝ったんですよね。五輪ですよ』と言ってきたから、『わからない』って僕も言って......。『たぶんそうだと思うけど、実感がわかないな。でもうれしいな。やったな』と話していました」

 見延は笑顔で、優勝の瞬間を振り返る。その雄叫びは関係者だけがいる、まばらな会場に響いたが、「もし満員の観客とともに喜び合えていたら」という寂しさも感じた。

 男子エペ団体の歴史的な金メダル獲得は、他の種目を含めた日本のフェンシングを活性化。その後の世代交代した男子フルーレや女子フルーレ、そして女子サーブルのパリ五輪へ向けた強さにつながっている。

著者プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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