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パリ五輪まで1カ月 山口香が考えるオリンピックの今とこれから「スポーツのいいところは、『ああいう世の中だと生きやすい』と思えるところ」

  • 西村 章●取材・文 text by Nishimura Akira

スポーツの世界はその国の社会の縮図と見ることもできる photo by AP/AFLOスポーツの世界はその国の社会の縮図と見ることもできる photo by AP/AFLOこの記事に関連する写真を見る検証:オリンピックの存在意義03〜山口香インタビュー後編〜

 フランス・パリで行なわれる今夏のオリンピックは、開会式は7月26日に開会式を迎える。前回の東京五輪の際には開催意義が日本国内で大きな議論になり、さまざまな不祥事や醜聞が次々と露見したことは、今も記憶に新しいが、オリンピックの存在意義は何なのか? 札幌五輪招致において、日本人が「No」と突きつけたのはどのような理由があったのか? JOC(Japanese Olympic Committee:日本オリンピック委員会)理事を2011年から10年間務めた筑波大学教授の柔道家、山口香氏は、われわれが目にする競技の裏にあるオリンピズム・オリンピックムーブメントの地道な啓蒙の濃淡にあると分析する。

【JOCの問題は日本社会の縮図】

――オリンピズム・オリンピックムーブメントは、近代オリンピックが始まった当初から掲げてきた理想があったと思います。ただ、その理想も時間とともに変わってくるのが当然だとも思うのですが、その議論が置き去りになったまま、商業イベントとしての側面のみが肥大していった印象があります。

山口:オリンピックムーブメントがなければ、ほかのエンターテインメントと同じになってしまうんです。だからオリンピックは「各競技の世界選手権やワールドカップとは違って、もっと崇高な理念のもとに実施しています」と主張しながら連綿と4年に一度開催してきたわけです。ただ、ある時期以降はエンターテインメント色がかなり前面に出ることになった結果、現在ではその理念が伝わりにくくなっている、というのが私の実感です。だから、皆さんから「そんなにお金をかける必要はないでしょう」「今やることはもっとほかにあるでしょう。優先順位が違うんじゃないですか」と言われてしまうと、反論できないわけです。

 札幌招致の気運が盛り上がらなかったことは、ある意味ではオリンピックに対する「No」ということですよね。パリ五輪が始まると日本でも盛り上がると思いますが、それはオリンピックだからというよりも、エンターテインメント性の高いスポーツ大会として見て感動しているからだと思います。だから、観戦する人々にとってオリンピックは、ワールドカップなどの世界大会と何ら変わるものではないんですよ。

――オリンピックの商業主義化は以前から指摘されていることですが、3年前の東京五輪で拒否反応が大きくなったのは、パンデミック下での開催という状況に加えて、IOC(International Olympic Committee:国際オリンピック委員会)の功利的な面が露骨に見えたからという理由も大きいように思います。

山口:だからこそ、私たちスポーツ関係者やJOC、アスリートたちは、たとえきれいごとであっても、ムーブメントを続けていかければならないんです。今後10~20年、あるいは私の生涯でオリンピックがなくなることはないかもしれませんが、このままだと持続可能とは言えないと思います。なぜかというと、今のオリンピックは予算規模などを考えると、もはや大都市でしかできない状態で、パリの次はロサンゼルス、その次がブリスベン。その後はまだ決まっていないですよね。立候補する都市がどんどん減っているのも、「別に自国で開催しなくてもいいんじゃないか」と考えている人が多いからではないでしょうか。

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著者プロフィール

  • 西村章

    西村章 (にしむらあきら)

    1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)、『スポーツウォッシング なぜ〈勇気と感動〉は利用されるのか』 (集英社新書)などがある。

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