柔道100キロ級の未完の大器。飯田健太郎にもう負けは許されない (2ページ目)

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • photo by PHOTO KISHIMOTO

 飯田も順調にキャリアを重ねていった。高校2年生で初出場した講道館杯は大学1年生で制し、昨年はアジア大会でのちの世界王者を決勝で下し、さらに今年2月のグランドスラム・デュッセルドルフでは世界ランク1位の選手を破って優勝する。

 日本男子100キロ級の代表候補は、2017年の世界王者であるウルフが一歩リードしていたが、福岡の地で飯田がウルフに勝利すれば、今年8月下旬に五輪会場である日本武道館で開催される東京世界選手権の代表に決まることが濃厚だった。しかし、飯田はウルフと直接対戦する前段階の準決勝で姿を消してしまう。

 らしくない試合だった。序盤は長い手足を活かし、羽賀の内股を悠々とかわし、飯田のペースで進んだが、ゴールデンスコア(延長)に入ると、羽賀の巴投げにバランスを崩し、一転して守勢が続いた。そして6分27秒、羽賀の内股に体を掬(すく)われ、「技有」。勝負は決した。

 試合後、すぐにミックスゾーンに現れなかったことは、この敗戦のショックの大きさをうかがわせた。ケガで長期離脱していた羽賀と飯田は初対決だった。

「これまで稽古したことはあるんですけど、そこまで激しいのは......。技が先に出せない組み手になってしまって、まったく想定していなかった巴投げを一度受けたところで、相手のペースに巻き込まれてしまった。やりたいことはたくさんあったのに、ほとんど出せないまま終わってしまった。シンプルに力不足、研究不足でした」

 2年前にインタビューした際、飯田は「2020年の東京五輪に出場するためには、その前の年の過ごし方が大事で、東京で開催される世界選手権で結果を残したい」と話していたが、その目標はかなわない。

 敗戦の直後にそのことを問うと、飯田は口を真一文字に閉じ、しばらくしてこう話した。

「ショックは大きいです。正直な気持ち、やり直したい。(今日を?)......はい」

 来年の東京五輪切符を手にするまで、もう飯田に負けは許されない。

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