勇敢さとしたたかさ。金メダルのベイカー茉秋が新時代の柔道を切り拓く

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • photo by JMPA

 礼節を重んじる美しき日本古来の柔道を体現したのが男子73kg級・大野将平(旭化成)の金メダルなら、豪快で狡猾な新しい時代の柔道をリオの地で提示してみせたのが同90kg級のベイカー茉秋(ましゅう/東海大4年)の金メダルだった。

 決勝の相手は、バルラム・リパルテリアニ(ジョージア)。ここまでの4試合をすべて「一本」で勝ち上がってきたベイカーは、金メダルの賭かるこの一戦でも、落ち着いて攻勢を保った。開始2分27秒に大内刈りで「有効」を奪うと、以降は無理に攻め込むことはせず、「指導2」をもらいながら、巧妙に相手から逃げ、5分の試合時間を使い切った。

男子柔道90kg級で金メダルを獲得したベイカー茉秋男子柔道90kg級で金メダルを獲得したベイカー茉秋 試合終了の銅鑼(どら)が鳴ると、ベイカーは両手を広げ、柔道を始めた日から夢見た金メダルの喜びを表現した。

 リオを訪れていた東海大柔道部の上水研一朗監督は言う。

「アイツは新種の日本人だから(笑)。形にはこだわらず勝ちに徹するんですよ。たとえば、日本人の柔道家には"(ポイントでリードしていても)最後まで攻め抜く"という美学があるでしょ? アイツの場合は、『最後まで攻めて投げられたらバカじゃないですか』と考えるタイプ。現行のルールでは、有効を奪ったら、指導を3つもらっても勝つことができる。勝つことに対する執念は、感心します。反対に、先にリードされたら、徹底して相手を追い込んでいきます」

 まさにベイカーの執念が勝利に結びついたのが準決勝の程訓釗(中国)戦だった。残り時間1分となって不可解な「指導」がベイカーにわたった。直後、大内刈りで「有効」を奪い、そのまま横四方固めで抑え込んだ。

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