日本屈指のオールラウンダー・宮澤夕貴が20カ月ぶりに代表合宿に 五輪金メダルへの「ピース」となるか?
宮澤夕貴は20カ月ぶりの代表招集でパリ五輪を目指す photo by Kato Yoshioこの記事に関連する写真を見る
宮澤夕貴が20カ月ぶりに女子バスケ日本代表に戻ってきた。東京オリンピックの銀メダルメンバーだが、2022年のワールドカップを最後に日本代表に招集すらされなくなった。「なぜ?」という悶々とした思いを抱えながらも、Wリーグでは屈指の万能型の選手、チームを16年ぶりのリーグ制覇に導くリーダーとして活躍。そして、パリオリンピックを目前に再び、声がかかった。
日の丸をつけ、コートに立てば、もう前を向くだけ。12人のロスター入りをかけ、ひたむきにプレーに集中していく。
【『なんで?』と思っても仕方がないが......】
シーズン後に実行しようとしていた、いわば「お楽しみリスト」のようなものを作っていた。
リストには8つほどの「やりたいこと」が書かれていたという。それについて聞かれると、コート上では決して見せないような、はにかみと照れの入り混じった表情でこう答えた。
「『ここ行きたい、あそこ行きたい』というリストを作ったんですけど、まずは大分に長い間、(自然を満喫するため)行きたかった。あとはおいしいものを食べに行きたかった......こんなこと言うの、恥ずかしいですけど、あっはっは(笑)」
大分で数日間を過ごすことは叶ったものの、それ以外の実行は先送りとなってしまった。
パリオリンピックへ向けての本格始動として5月上旬から始まった日本女子代表チームの第1次合宿に、宮澤夕貴(富士通レッドウェーブ)が名を連ねた。
2021年の東京オリンピックでは銀メダル獲得という快挙を成し遂げたチームの一員となり、国内のWリーグでも長年トップ選手として広くその実力を知られる30歳だが、約20カ月ぶりの代表活動参加となった。
大きなケガをしていたわけでもなかった。にもかかわらず、日本代表は宮澤にとって縁遠いものとなってしまった。その理由は、当の宮澤にとってもわからなかった。
「もう、合宿にすら呼ばれなかったので」
宮澤が、そう話し始める。彼女にあるいは他意はなかったのかもしれないが、聞いている記者たちの間に若干の緊張感が走ったように感じられた。
「自分が辞退したわけじゃなかったので......ヘッドコーチが呼ぶ、呼ばないを自分が『なんで?』とか思っても仕方がないので。もうそこは割り切って、自チームで頑張ろうという気持ちでした」
宮澤が最後に代表のユニフォームを着たのは、2022年のFIBA女子ワールドカップだった。トム・ホーバスヘッドコーチの下、アシスタントを務めた恩塚亨氏が東京オリンピック後に指揮官に昇格。パリオリンピックでの金メダル獲得へ向け、この大会にも優勝を狙って入った日本代表だったが、ふたを開けるとわずか1勝で予選ラウンド敗退という悲惨な結果に終わった。
東京オリンピックでチーム2位の1試合平均11.5だった得点はわずか0.4に、1試合平均3.2本決めた3ポイントシュートにいたっては1本も決めることがなかった。
もっとも、力を出せなかったのは宮澤だけではなかった。このワールドカップ時点の日本代表は恩塚HCの志向するバスケットボールに選手たちの理解と成熟度が伴っておらず、かつ東京オリンピックでの成果によって他国から研究されたこともあって、大半が力を出すことができなかった。
しかし、そこからチームは再出発を図り、スタイルに改良を重ねるなかで、選手たちがすべきこともより明確化されていった。成果は徐々に表われ始め、今年2月の世界最終予選では、ハンガリーに星を取りこぼし窮地に陥りはしたものの、スペイン、カナダと世界ランキングで上位のチームを破って、恩塚HCの追い求めるものに近い戦いぶりを見せた。
「OQT(世界最終予選)の時はすごく良い動きで、だんだんとチームが出来上がっている感じがありました。最初、自分が(代表に)行った時には恩塚さんがHCになってすぐだったので、チームとしてあまり機能していない時が続いたんですけど、トムさんの時も最初はうまくいかなかったですし、今はだいぶ、チームとしてできてきたのかなという感じですね」
宮澤は外から代表を見ていての感想を、そう語った。
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著者プロフィール
永塚和志 (ながつか・かずし)
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。
Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、 2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。 他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験 もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社) があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・ 篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社) 等の取材構成にも関わっている。