戴冠を決めたハミルトンにベッテルが「辞めるな」と言った理由 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 今年、ハミルトンの肉体はさらに磨きがかかっていた。しかし、磨かれたのはそれだけではない。

 ヴィーガン生活を始めた昨年の後半から、今年はさらにトレーニングも進化させ、メンタルにも磨きをかけてきた。ミスが少なく、抜群の安定感を誇ったのは、そのためだ。

「僕自身も今まで以上に身体を鍛え、メンタルも鍛えてきた。そうやってあるべきエネルギーを手に入れ、日々の暮らしのなかで正しいバランスを築き上げたんだ。さまざまな面を鍛え上げることで、僕は今まで以上に優れたパフォーマンスを発揮できるようになった」

 ハミルトンの言う「さまざまな面」とは、サーキットの外での暮らしのことだ。

 世界中をプライベートジェットで飛び回り、ファッションや音楽業界の友人、セレブリティたちと派手な生活を送る。そんなハミルトンの姿に、「アスリートにふさわしくない」と批判の声を上げる人も少なくない。

 しかしハミルトンは、そんなクリエイティブな生活がポジティブな活力をもたらしてくれるのだと言う。もちろん、身体を鍛えるトレーニングはどんな場所にいても欠かさない。マシンから速さを引き出すための技術的な努力も惜しまない。見えないところで努力をするのは、彼にとって当然のことだ。

 その努力をしたうえで、自分の心にプラスになる創作活動や旅にも勤しむ。それが、レースにもプラスに働く。

 たとえば、トミー・フィルフィガー。メルセデスAMGのスポンサーであり、そのブランド確立に対する情熱がハミルトンにも大きな影響を与えたトミー・フィルフィガー本人は、メキシコGPを訪れ、ハミルトンの栄誉を称え、かたく抱き合った。そんなレース外の活動や交友が、ハミルトンのメンタルをさらに強くした。

 それが冒頭の言葉のなかでハミルトンの言う「最良のバランス」であり、今のハミルトンは肉体も精神もこのうえなく充実した状態にあると言える。

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