150万円の安馬、モーリスのサクセスストーリーが香港で完結した (3ページ目)

  • 土屋真光●文・写真 text & photo by Tsuchiya Masamitsu


 一方、パドックでのひと暴れが不安視されたエイシンヒカリはすんなりと先手を取る。外からホースオブフォーチュン(せん6歳)に並ばれるも、引っ掛かることなくこれをいなし、2コーナーから徐々に後続を引き離すと完全な一人旅に。3コーナーに入ってから、さらに後続を引き離しにかかり、昨年とほぼ同ラップで再現を狙う。当然、後続勢もここから進出。続々と鞍上に促されながら、前との差を詰めに掛かる。ここで落ち着いていたのがムーア騎手とモーリスだ。追撃で勢いのついた前の馬たちがコーナーで膨れるのを見越したかのように、ラチ沿いを通って巧みに前との差を詰めにかかる。

 直線に向いて、エイシンヒカリが後続を振り切りにかかるが、残り200mを切った付近で急激に失速。これと同じタイミングで、モーリスが猛烈な勢いでインコースを突き抜け、下がってきたエイシンヒカリを軽くいなすように交わすと、あとは独走。追い込んだシークレットウェポン(せん6歳)以下に3馬身差をつける完勝で、有終の美を飾った。僅差の3着争いは、ステファノス(牡5歳)がラブリーデイ(牡6歳)を抑え、ワンツーフィニッシュこそならなかったが、日本調教馬が上位に顔を並べた。

 エイシンヒカリが止まったのも大きかったが、モーリスの後半800mのラップは45秒85。日本でも簡単に計時できる後半のラップではない。ましてや、今年のシャティンの芝はやや時計がかかるほうだったのだから、驚き以外の何ものでもない。最後の最後でまた、モーリスがその能力の高さを世界に示した。翌日の現地の紙面では「神の領域に達した」とまで評された。

 ついに現人神ならぬ"現馬神"となったモーリスだが、ここに至るまでは決して順風満帆ではない。1歳時のサマーセールで150万円の低額で落札され、ハードトレーニングを積まれて上場された2歳時のトレーニングセールでも1050万円という取引価格だった。無事にデビューにこぎつけたが、2、3歳時では重賞に出走するも、勝つことはおろか連対すらもできずに終わる。堀宣行調教師の後のコメントによれば、「トレーニングセールに出るための無理が残ったのか、背腰の疲れが抜けきらない」ため、堀厩舎に転厩してきてからはそのケアに重点が置かれるようになった。

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