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サッカー日本代表の「無失点」はそれほど重要か 一観戦者にとって魅力的な試合とは?

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

連載第10回
杉山茂樹の「看過できない」

 森保式3-4-2-1を「超攻撃的サッカー」と称し、盛り上がろうとする日本サッカー界に、筆者はいささか閉口している。論理的かつ理論的な物差しを当てようとせず、「攻撃的サッカー」「守備的サッカー」をムードで語ろうとする。なぜそういうことになるのか。もともとこだわっていなかったからだと考える。

 欧州では1990年代後半に両者が激しく対立。その結果、攻撃的サッカーがメインストリームを歩むことになった。そうした歴史的な背景が日本では詳らかにされていない。欧州で起きた議論もないまま現在に至っている。

 森保一監督は6年前に行なわれた代表監督就任会見で「臨機応変」という言葉を持ち出している。攻撃的なのか、守備的なのか、布陣はどうするのかと問われた際の返答であるが、白黒をハッキリさせないその曖昧さに、日本サッカー界はいまなお翻弄されている。その結果、欧州的思考法ではなく非論理的な日本的思考法でサッカーいう競技が語られている。森保式3-4-2-1が「超攻撃的サッカー」と称される理由だ。

 得点14、失点0。2026年W杯アジア3次予選、日本は中国、バーレーン、サウジアラビア戦までの3試合を、上記のような圧倒的なスコアで乗りきった。オーストラリア戦のオウンゴールで今予選の初失点を許したわけだが、その失点にこだわる人は少なくない。

オーストラリア戦の後半13分、失点に呆然とする日本の選手たち photo by Fujita Masatoオーストラリア戦の後半13分、失点に呆然とする日本の選手たち photo by Fujita Masatoこの記事に関連する写真を見る リードしていたバーレーン戦やサウジアラビア戦の試合終盤、テレビの解説者はこう述べたものだ。

「失点ゼロで抑えたいですね」

 今回に限った話ではない。日本代表戦以外にも、Jリーグの試合、ヘタをすると欧州のクラブの試合でも、テレビ解説者は終盤、失点ゼロ、完封を求めたがる。そこに美徳があるとしている様子だ。3-0で勝っていて、3-1にされることを極端に嫌う。

 どこかプロ野球における試合終盤の投手リレーを想起させる、「試合の締め方」にこだわろうとする。森保監督は、4バックで戦っていた時も、土壇場で5バックにする守備固めを幾度となく採用しているが、多くのテレビ解説者は、それを当たり前のこととして受け入れていた。

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著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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