【日本シリーズ2024】DeNAにあって、ソフトバンクになかったもの 試合前のベンチで見た対照的すぎる光景 (3ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro

【苦境をはね返す圧倒的戦力】

 2024年のソフトバンクは間違いなく強かった。ただ、長いシーズンを戦えば苦境には必ずぶち当たる。今年のチームにも何度かあった。

 たとえば7月7日の楽天戦、今季初の4連敗危機を迎えた試合だったが、1点ビハインドの8回二死満塁で代打・柳町達が逆転三塁打を放って劇的勝利したことがあった。

 8月16日のロッテ戦は、前日まで所沢遠征だったチームが台風の影響をモロに受けて早朝移動を余儀なくされるドタバタ劇のなかで臨んだが、福岡で残留調整していた有原航平が完封勝利を飾った。「チームは5時起きと聞いたんで、11時まで寝ていた僕が頑張らないといけないと思いました」と寡黙な有原が珍しく冗談を飛ばすほどの会心の投球だった。

 選手層の厚さも個々のタレント力も、12球団のなかでは頭抜けている。だから、苦境にたとえ陥ってもどこかのタイミングで息を吹き返し、快進撃を見せる。9月には4連敗を喫したあとに7連勝したこともあった。

 だが、短期決戦の場合は待っている間に終わってしまう。無理やりでも立ち上がらなければならない。たとえカラ元気だったとしても、それが必要だ。

 DeNAにはそれがあった。第2戦後に行なったという選手ミーティングで、桑原将志が「悔しくないんか!」とは言っていないと激白したが、声を上げてチームを鼓舞したのは事実。なにより毎試合プレーボール直前にダグアウトで円陣を組んで、桑原がノリノリの声出しダンスをして、あえて"バカ"を演出して盛り上げていた。それはソフトバンクにはない空気感だった。

 ソフトバンクとしては"苦境"がたまたま日本シリーズという大舞台の真っ最中に訪れてしまった。それは不運だったとも言える。ふだんの野球をまっとうできれば、違う結果になっていたかもしれない。

「シーズンを戦った選手たちは、そこ(リーグ優勝)は変わることはない。胸を張って福岡に帰ってもらいたい」(小久保監督)

 2024年のソフトバンクは強かった。ある意味、唯一にして最大の弱点がこのタイミングで来てしまったのだ。

「熱男」は容易に生まれない。つくろうと思っても、簡単にできるものでもない。

 またテクノロジー全盛の野球界において、特にソフトバンクはその方向に全振りしようとしている。だけど、そんなアナログ的な部分も置き去りにしてはいけないと、野球の神様に釘を刺されたのかもしれない。

著者プロフィール

  • 田尻耕太郎

    田尻耕太郎 (たじり・こうたろう)

    1978年生まれ、熊本市出身。 法政大学で「スポーツ法政新聞」に所属。 卒業後に『月刊ホークス』の編集記者となり、2004年8月に独立。 九州・福岡を拠点に、ホークスを中心に取材活動を続け、雑誌媒体などに執筆している。

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