日本の各球団が外国人選手を育成枠で獲得。先駆者・森繁和がその意図やからくりを語る (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Sankei Visual

 2015年の同大会でキューバは銅メダルに輝いた。アメリカと国交のないキューバでは有力選手が次々とメジャーリーグに亡命するなか、前年からフレデリク・セペダ(元・巨人)、ユリエスキ・グリエル(元・DeNA/現・アストロズ)、アルフレド・デスパイネ(元・ロッテ/現・ソフトバンク)というトップクラスを日本に派遣し始めた。高い実力の割にリーズナブルに獲得できる選手を求めてNPBの球団がキューバとパイプを築こうとするなか、森氏は違った動きを見せた。すでに成熟した選手ではなく、これから伸びていく若手に食指を伸ばしたのだ。

「なんでライデル・マルティネスを知っているんだ?」

 森氏の要望に驚いたキューバ野球連盟は「若くて経験がない選手じゃなくて、こういう選手はどうだ?」と、逆に提案してきた。リストに挙げられたのはもっと年齢が上で、実績のある選手たちだった。

 2010年代中盤から後半にかけて、キューバ球界は時代の変わり目に立っていた。2009年から8年に渡ってアメリカの大統領を務めたバラク・オバマはキューバに対して融和政策をとり、選手をメジャーリーグに派遣する道が両国で模索された。キューバから合法的にMLB入りするルートができれば、すなわち主力選手の亡命を抑えられる。つまり、選手を海外へ高く売り込むチャンスだ。

 しかし、2016年11月にキューバ革命を実現したフィデル・カストロが逝去すると、翌年1月、アメリカ大統領にドナルド・トランプが就任する。「アメリカ・ファースト」を打ち出し、キューバから合法的にMLBへ選手を送り込む道は途絶えた。

 1991年にソ連が崩壊して以降、後ろ盾を失ったキューバは苦しい経済状況に置かれ続けた。筆者は2015年春に訪れたが、トップリーグのグラウンドさえ整備が行き届かずにでこぼこだった。ホテルでハンバーガーを頼んだら、食パンにはさまれて出てきたほど、生活物資は不足していた。

「ボールがなくて開幕できない。ニューボールを送ってくれないか」

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