プロ野球トライアウトに現れた「左腕ナックルボーラー」は何者なんだ? (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami shirt
  • 祐實知明●写真 photo by Sukezane Tomoaki

 植松がこの日投げた全9球のうち、134キロのストレート以外の8球はナックルボールだった。このボールで勝負するために、植松は再び戦いのマウンドへ戻ってきたのだった。

「今年もトライアウトは静岡(草薙球場)かと思っていたら甲子園。なんか不思議ですけど、僕は野球人生の節目で甲子園が絡むんです。これで3回目ですから」

 登板後、爽やかな表情を浮かべ、植松は言った。

 これまでも植松には甲子園の思い出が2つあった。ひとつは金光大阪のエースとして立ったマウンドだ。2007年夏、中田翔がエースで4番の大阪桐蔭を大阪大会決勝で破り、怪物一色に染まるはずだった夏の甲子園を幻に終わらせた。

 ちなみに、甲子園では初戦敗退。神村学園を5回まで0点に封じながら、6回に一挙4点を奪われ、逆転負けを喫した。じつは、試合中盤から植松の足がつるアクシデントがあった。後日、横井一裕監督が明かした理由がじつに植松らしいものだった。

 ある3年生が試合前日に宿舎で熱を出した。監督、コーチらが面倒を見ると生徒も気が休まらない。そこで「3年生で見てやってくれ」と伝えたところ、夜中まで先頭になって部屋をのぞき、身の回りの世話をしたのが植松だったのだ。結果、寝不足となり、翌朝から微熱も出て、足もつってしまった。「『なにしとんねん!』っていう話なんですけど、ほんと、名前のまま、植松はいいヤツなんですよ」と、呆れ顔をしながらも嬉しそうに語った横井監督の顔が今も印象に残っている。

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