下剋上へ手応え。選手起用に見る日本ハムのチーム戦略 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

 2回に2点を先制されて、ようやく金子千尋から1点を返した直後の5回裏。先頭の平野恵一は初球からバントの構えをして、大谷を揺さぶりにかかっていた。しかし大谷はまったく意に介さず、自分のピッチングに集中していた。それは、近藤の言葉があったからだったのだ。近藤はこんなふうに話している。

「アイツは肩も強いし、バント処理には自信があるはずです。だったら、正面の強い当たりのバントだけ行けばいいと思ったんで、ゲーム中にそう言いました」

 試合後の大谷、近藤のコメントを伝え聞いた栗山監督は、嬉しそうな顔でこう言った。

「5回だよね? 確かに近藤には、バントに備えて『前へ出ていいぞ』ということは伝えたけど、翔平のことは何も指示してないよ。近藤の判断でそう言ってくれたんだろうね。だから、それが複数のポジションを守らせることの強みなんだ。キャッチャーをやってたから、当然、ピッチャーの気持ちがわかる。近藤は相手の攻撃の意図を読み取って、バタバタし掛けていた翔平にそう伝えたんだと思う。チームとしては、サードがそれをしてくれるというのは大きいよ」

 2012年、横浜高校からドラフト4位で指名された近藤は、キャッチャーとして、高卒ながらもプロ1年目、一軍の試合に出場した。ファイターズでは56年ぶりの快挙だった。高卒1年目で出場した日本シリーズでは、代打として3試合に登場。2年目は二軍のキャッチャーとしてクリーンアップを打つなど、誰もがファイターズは近藤を、次代を担う"打てるキャッチャー"として育てていくのだろうと思っていた。しかし案に違わず、このチームにおいてはそういう思い込みは禁物だ。

 ファイターズは、入団したばかりの近藤に最初のキャンプから内野用のグラブを持参させていた。思えば近藤の入団当時、担当スカウトの大渕隆ディレクターは、「近藤は3年をメドに出てきてもらわないと困る、そういう選手です」と話していた。高卒のキャッチャーに3年とは、ずいぶん高いハードルだと思っていたが、実は最初から内野手としての起用もイメージしていたのである。以前、栗山監督もこんな話をしていた。

「近藤については、僕は1年目からサードも外野もイメージしてました。だから1年目の日本シリーズから代打として使ったし、練習では内野でノックを受けてもらったりして、ずっと準備をさせてきた。そうすると野球の神様が、ここだというピンポイントのタイミングで指示を出してくる。だって誰がケガをするのかなんて、野球の神様にしかわからないでしょ。(小谷野)栄一がケガして、サードが空く。大引(啓次)もいない(下半身の張りでその時、3試合欠場中)。そうなると、ショートにタク(中島卓也)、サードに近藤を使おうということになる。それは、僕が決めるわけじゃない。野球の神様の指示に沿ってるだけなんです」

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