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大谷翔平ら中心にドジャース王朝への第一歩 稼いだ利益はさらなる強化のために再投資

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

LAのダウンタウンの北側に位置する渓谷に建つドジャースタジアム photo by AP/AFLOLAのダウンタウンの北側に位置する渓谷に建つドジャースタジアム photo by AP/AFLO

第1回/全4回:ドジャースタジアム大型改修の目的と背景

26年ぶりの世界一に輝いたロサンゼルス・ドジャースがこのオフ、1億ドル(150億円)の資金を投入して本拠地・ドジャースタジアムの改修を行なっている。
その背景には、メジャーリーグ全体のなかにおけるドジャースの立ち位置、そして常に常勝を目指すべく積極的な投資姿勢が見て取れる。

*文中は1ドル=150円換算で表記

【メジャー全体のチーム年俸から見るドジャースの突出性】

 ロサンゼルス・ドジャースが連覇に向け、本腰を入れている。12チームがポストシーズンに出場できる現行のシステムで、最後まで勝ち抜くのは容易ではないし、21世紀になってから2年連続で頂点に立ったチームは、まだ存在しない。しかしドジャースは大谷の契約期間である10年間で、王朝を築く覚悟を固めている。

 新たな意思表明となったのがオフの積極補強だ。これまで2度、サイ・ヤング賞に輝いた左腕ブレイク・スネル(今季はサンフランシコ・ジャイアンツ)と5年総額1億8200万ドル(273億円)の契約を結び、ナ・リーグ優勝決定シリーズでMVPに輝いたトミー・エドマンとも5年総額7400万ドル(111億円)で契約を延長した。

 米データサイト『スポットラック』によると、ドジャースのサラリー総額はすでに3億1250万ドル(468億7500万円)で、それにかかる贅沢税(*)は5405万ドル(81億750万円)だが、それでも補強の手を休めない。テオスカー・ヘルナンデス外野手と大型契約を結ぼうとしているし、ベテランのクレイトン・カーショー、佐々木朗希との新たな契約もある。

*メジャーリーグ各球団に定められた選手のサラリー総額を超えた場合の追徴金。贅沢税が発生する最初の閾値は2億3700万ドル(355億5000万円)に設定され、それを上回る総額に応じて、段階的に贅沢税の金額が決められている。本来は、戦力均衡を目的として設けられた制度だが、実際には収益の高いチームが贅沢税を払ってでも、巨額の契約を複数結ぶケースが発生している。

 スネルとエドマンは、それぞれの契約のうち6600万ドルと2500万ドルの後払いを受け入れたため、ドジャースは2028年から2046年にかけて7人の選手に対して10億650万ドル(1510億円)の後払いをすることになった。ご存じの通り、大谷は10年総額7億ドル(1050億円)の契約のうち6億8000万ドルを後払いとしている。次に後払いが多いのはニューヨーク・メッツとボストン・レッドソックスでそれぞれ1億3700万ドル(205億5000万円)と1億3050万ドル(195億7500万円)と一ケタも違う。そのほかに後払い総額が5000万ドル(75億円)を超える球団はない。

 これに対し、他球団のファンは「ドジャースは支払いを後回しにすることで、好きな選手を全員獲得している。制度を悪用し、野球界の秩序を壊している」といった主旨で、インターネット上で騒いでいる。

 とはいえ、ドジャースが優れた選手を手に入れられている一因は、ほかの多くの球団が高額なFA選手の獲得に消極的だからだ。2024年シーズンは、贅沢税が発生する最初の閾値(2億3700万ドル)に対して、MLB全体のチーム平均年俸は1億6600万ドル(249億円)で、その差は7100万ドル(106億5000万円)に上る。

 30球団のうち、贅沢税を支払わなければならない年俸総額となったのはわずか8チームであり、16チームは年俸総額が2億ドル(300億円)未満だった。さらに詳しいデータを調べると、多くのスモールマーケットチームは、チケット販売やテレビ放映権料などから得た収益の40%~50%しか選手への投資に回しておらず、リーグの収益分配制度でドジャースのようなビッグマーケットチームから回ってきたお金まで懐に入れている。

 例えば、ピッツバーグ・パイレーツはドラフトのトップ指名選手である大物投手ポール・スキーンズなど、若手選手の台頭により来季のポストシーズン進出のチャンスを有しているにもかかわらず、このオフのFA市場では大物選手の争奪戦にまったく参加していない。昨季のチーム年俸総額は8400万ドル(126億円)で、MLB全体で2番目に少なく、9年連続でプレーオフ進出を逃している。

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著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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