【新車のツボ112】
フォード・フォーカス試乗レポート
本連載でフォード・フォーカスを取り上げるのは2度目。前回は第52回だった。
といっても、今回も前回も、大きくいえば同じ3代目フォーカスで、今回はいわゆるマイナーチェンジを受けただけ。目立って変わったのは、最近のフォード顔となったフロントまわりのデザインと、エンジンが今っぽい小排気量ターボ(1.5リッター)になったくらい。あとは内装の細部や装備、そして乗り味方面の細かい改良といった程度。
......なんだが、その最新フォーカスに乗ったら「やっぱりエエなあ、しかも今までより、もっとエエなあ」と、いても立ってもいられず、あらためて皆さんにご紹介せねばなるない......と、勝手な使命感にかられてしまった。
前回にもちょっと書いたが、フォーカスは世界でも屈指のグローバルカーであり、"ベストセラーカー世界ランキング"では毎年のようにトップをうかがう存在だ。世界ベストセラーカーといえば、わが日本のトヨタ・カローラも常連だが、今のカローラは仕向け地ごとにいくつかの種類があり、たとえば日本で売られるカローラは、海外用より明らかにコンパクトな日本専用車。その意味では、世界共通ボディで販売するフォーカスこそ、真の世界ベストセラーの1台といってよい。
そんな世界の大衆車フォーカスも日本に来ると、グローバルスタンダード(笑)からは想像もつかないほど、カルトなマニア専用商品になるのが興味深くも、フォード好きとしては哀しい。同クラスの輸入車としては、VWゴルフ(第64回参照)やプジョー308(第102回参照)のほうがはるかにメジャーである。
しかも、ゴルフや308はどちらも3年以内にフルモデルチェンジされたばかりで、海外では2010年秋にデビューした5年選手のフォーカスより、明らかに新しい。たとえば、ゴルフや308の車重が1.3t台前半なのに対して、フォーカスは1.4t台。つまり、ボディサイズもエンジン性能も同じようなものなのに約100kgも重いのは、フォーカスがひと世代前の設計ということも意味する。また、ゴルフや308が路面を問わずに、ボディが空中から吊り下げられたようにピタリとフラットなのに対して、フォーカスは加減速やカーブでボディがジワッと傾いて、その乗り味はなんとなく古典的でもある。
ただ、フォーカスはそのジワッと感が絶妙すぎるくらいに絶妙なのだ。タイヤが路面に吸いついている様子が手に取るように鮮明で、運転操作ひとつひとつに対する反応が、いちいち人間の五感に沁みわたる。オレは運転している......実感やリアル感は、さすがフォードのお家芸。
この点では従来のフォーカスも素晴らしかったが、マイナーチェンジで丹念に煮詰められたことで、もはや本当に完璧の絶品。ステアリングの重さやタッチと、実際の走りのリズム感との調和は、文句なしのツボである。
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著者プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/