【新車のツボ38】
ジャガーXF3.0 試乗レポート
その走り味や乗り心地が、マニアの間で"猫足"と形容されるクルマが2つある。ひとつがフランスのプジョーで、もうひとつは現在オリンピックで盛り上がっているイギリスのジャガーだ。どちらも伝統的に快適な乗り心地を売りにしていて、しかもマスコットがネコ科動物......なのが両社の共通点。ジャガーのトレードマークは文字どおりのジャガー、プジョーのそれはライオンである。
1950年代までは栄華を誇ったイギリスの自動車メーカーも、60年代以降の長期間にわたるイギリスの景気低迷(英国病などといわれた)のなかで、合従連衡や外資への売却が急激に進んだ。ジャガーもその例にもれず、一時は国営化されたり、89年にフォードに買収されたり......の紆余曲折を経て、今はインド大財閥グループのタタ傘下にある。
フォード傘下時代はFF車もつくっていたジャガーだが、現在はふたたび昔ながらの高級な後輪駆動車専用メーカーになっている。そんなジャガーで今もっとも小さいモデルが、このXFである(小さいといってもBMWでいう5シリーズ級、日本車でいえばトヨタ・クラウンよりひとまわり大きい)。
ジャガーにもアルミボディや電子制御サスなど世界最先端ハイテクがあるのだが、少なくともXF......とくに安価なこの3.0リッター車(595万円~)には特筆すべきハイテクは特になし。エンジンを始動するとスルーッとせり出してくるダイヤル式のATセレクターは面白いが、これもハイテクというよりアイデア勝負のアイテムである。
それにしても、XFの走りはまさに"猫足"。フワフワでもスルスルでもなく、ネコ科動物が獲物をねらっているときの忍び足の"ヒタヒタ"という表現がぴったりなのだ。
一般的には「イギリスの古臭いセダン?」というイメージが強いジャガーだが、もとはル・マンなどでの活躍で名声を得たスポーツカーを売りにするメーカーだ。その伝統はXFにも存分に活かされていて、窓が強く傾斜したスポーツカー風のスタイル、ボディサイズや重量は絶対的に小さくも軽くもないのだが、コクピットはギュッとコンパクトに凝縮されていて、動きはとにかく軽やかである。
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著者プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/