錦織圭「人生で一番悔いの残る」記憶と再び向き合う チリッチとの激闘から10年
人生で一番悔いの残る試合を問われたら、「たぶん、あの試合を選ぶと思います」と、錦織圭は言った。
あの試合......それは、2014年の全米オープン決勝戦。雲の切れ間から満月がのぞく晩夏のニューヨークの空の下で、マリン・チリッチ(クロアチア)に3-6、3-6、3-6で敗れた一戦のことだ。
「負けたからというわけではなく、やっぱりあの決勝の大舞台で、いいプレーができなかったという悔いがあって」
それが「人生最大の悔い」の正体だ。
ジャパンOP初戦で34歳の錦織圭は35歳のチリッチと対戦 photo by AFLOこの記事に関連する写真を見る あれから、10年──。今、錦織がその試合について語る訳は、9月25日に開幕する「木下グループジャパンオープン」初戦で、そのチリッチと対戦するからである。
現在、錦織は34歳で、チリッチが35歳。最高位は錦織4位、チリッチは3位。そして現在のランキングは、錦織200位、チリッチが212位。これまで15度の対戦を重ねてきた両者だが、最後にネットを挟み立った時となると、2018年全米オープンまでさかのぼる。
10年前の決勝戦の日。「今後のテニス界の担い手」と目されたふたりは、いずれも周囲の期待に応えながらも、葛藤の時を過ごしてきた。
チリッチはその後も二度、グランドスラム決勝の舞台に立つが「ビッグ4」の壁を崩せず、頂点には手が届かなかった。一方で錦織は、年間上位8名のみが出場できる「ATPツアーファイナルズ」に2014年から3年連続で出場。「テニス界の顔」となるも、2017年以降は度重なるケガに悩まされた。
特にここ3年の錦織は、股関節の手術とひざの故障で戦線を離脱するうちに、時は流れる。一年以上も試合に出られず、2022年10月から翌年6月にかけて、ランキング表から名前が消える空白の8カ月も経験した。
時期を同じくしてチリッチも、ケガとの苦闘に月日を費やす。2022年10月には14位につけたが、年明けに右ひざを痛めてメスを入れた。
術後も完全回復はならず、今年5月に「これが回復のための最良の策」として、再び手術に踏みきった。「またトップレベルで戦いたいという情熱は衰えていない。それどころか、かつてないほどに強い」との言葉を、ソーシャルメディアにつづって。
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著者プロフィール
内田 暁 (うちだ・あかつき)
編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。