錦織圭がケガ再発を恐れながらもウインブルドンに強行出場する理由 残された時間のデッドは9月末?
3年ぶりにウインブルドンの会場に足を踏み入れた時、錦織圭は「いろんなものが変わりすぎていて、取り残されている感じがした」と言う。
大会開幕を翌日に控えた会見室。そのメディアセンタービルそのものが、3年前にはなかったものだ。
伝統を謳うウインブルドンではあるが、『聖地』と敬われる格式や威厳は、実は常に細やかに手を加えることで保たれている。その変化を瞬時に感得した事実が、錦織が最後にこの地を訪れてから流れた、年月の重みを物語っていた。
錦織圭が聖地ウインブルドンに帰ってきた photo by AFLOこの記事に関連する写真を見る 6月30日に行なわれた、前日会見の冒頭。出場の意志を確認する問いに、錦織は隠し事のできぬ正直者の笑みを浮かべ、「まだ決めきれてはないんですけど、ちょっとまだ微妙なとこですね」と応じた。
ひと月前の全仏オープンでは、2回戦途中で棄権。その時の理由は肩の痛みだったが、現在錦織を悩ませているのは、右足首の捻挫である。
10日前の練習中に足を滑らせた際に負ったもので、「前にもひねって、クセになっている」という古傷。日に日に回復はしているが、出場の可否は「一日を争うような段階」というのが現状だ。
赤土から芝へとコートサーフェスが移行する初夏の欧州シリーズは、長いテニスシーズンにおいても、最も困難なチャレンジだと言われる。ボールのバウンドから足もとの感覚までが大きく変化し、例年、負傷する選手が多い時期でもある。
しかも、今年はウインブルドンの直後に、再び全仏オープン会場のローラン・ギャロスでオリンピックが開催。目まぐるしい変化が身体に強いる負担を考慮し、ウインブルドンかオリンピックかの選択を迫られる選手も少なくない。
そのような、ただでさえ負荷の大きな状況ではあるが、ウインブルドン出場を切望する錦織の表情には、明るい光も射していた。それはテニスの調子そのものがよく、ひねった足首を除けば、身体の状態もいいためのようだ。
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著者プロフィール
内田 暁 (うちだ・あかつき)
編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。