パリオリンピック男子サッカー「日本だけオーバーエイジなし」問題をこのままスルーしていいのか

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

連載第2回
杉山茂樹の「看過できない」

 W杯アジア最終予選の中国戦(ホーム)、バーレーン戦(アウェー)に臨む日本代表のメンバー発表が8月29日に行なわれる。パリ五輪を戦ったU-23日本代表からどれほどの選手が昇格するか、若返りが図られるかも注目されるが、「次は2026年北中米W杯だ」と、筆者は簡単に先に進む気が起きずにいる。

 7月3日の前回のメンバー発表記者会見。パリ五輪に臨む18人+4人(バックアップメンバー)の顔ぶれが発表された会見の席上で、大岩剛監督の傍らに座る山本昌邦ナショナルチームダイレクターから発せられた言葉が耳から離れずにいるからである。

 オーバーエイジを招集できない、その難しさについて、そこで山本氏は包み隠さず、丁寧にこう説明した。

「オーバーエイジについては1年以上前から調整を進めてきました。選手の意思をまず確認し、所属クラブの了承も得なければならない。移籍が関わってくれば、現在のクラブとその先のクラブに確認をとらなければならない。欧州市場は日々、さまざまな要因が絡みながら動いています。監督が交代すれば選手のチーム内での立ち位置も変わります。移籍先が決まらなければ交渉さえできない状況です。

 先を予想して交渉を進める作業は困難を極めました。オーバーエイジに限らず、この年代で活躍している久保建英、鈴木唯人も今回、招集が叶いませんでした。我々はヨーロッパオフィスを抱えています。各クラブと連絡を取り合いながら、昨日まで努力してきたつもりです。選手たちがチーム内でとてつもなく大きな存在として必要されているからこそ、こうした困難な状況になっているのだと思います。U-23に限らずU-20でも同じ現象が起きています。そうした時代になったんだと、これを私は日本サッカーの明るさと捉えています」

 オーバーエイジを招集できなかったことをさして残念がらず、むしろ列強の仲間入りを果たした証だと、明るく前向きに解釈しようとした山本氏。話の筋は通っている。それが事実で、オーバーエイジの招集が本当に困難なら、他の出場国も似たり寄ったりだろう。パリ五輪はU-23世界選手権に限りなく近い大会になるものと思われた。

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著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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