【日本シリーズ2024】「3番・今宮健太」に見るソフトバンク小久保監督の危機管理能力と勝負勘
試合は最後の最後にうねりを起こした。
8回終了時点ではソフトバンクが2点、DeNAは無得点。両球団ともレギュラーシーズンではリーグ1位の打率と得点数を誇る強力打線が持ち味のはずが、ソフトバンク先発の有原航平のまさかの2点タイムリーだけが試合を動かしていた。
しかし、9回の攻撃では両チームが3点ずつを奪い合い、最終スコアは5対3に。ソフトバンクとしては守護神を任せるロベルト・オスナの乱調が気がかりではあるものの、9回表の追加点が結果的にはとても大きかった。
日本シリーズ第1戦の9回に貴重な2点タイムリーを放ったソフトバンク・今宮健太 photo by Kyodo Newsこの記事に関連する写真を見る
【今宮健太を今季初の3番で起用】
この9回の3得点、"小久保采配"がズバッと的中した。
イニング先頭に代打で起用した嶺井博希がセンター前ヒットを放って、ノーアウトからチャンスを演出した。嶺井は今季一軍登録されたのは6月4日から20日まで17日間だけで、出場は4試合で6打席のみ。ただ小久保裕紀監督は「ハマスタで打ってるイメージだったんで。あのままの点差(2対0)なら、もう先頭は嶺井でいこうと。バッティング練習を見てたけど、ファームでも結構状態がよかったんで」と、自信をもって切ったカードだった。
嶺井の今季出場は、すべて代打から試合に入っていた。成績は4打数2安打。しかも6月8日、古巣であるこの横浜スタジアムでのDeNA戦では東克樹から左越えソロ本塁打を放ち、さらに翌日の試合でも代打安打から2打数2安打をマークしていた。
嶺井の安打から一死一、二塁とし、追加点を叩きだしたのは今宮健太のバットだった。低め直球を弾き返した打球は相手右翼手の頭上を越えていった。この場面では一走だった周東佑京が二走の川村友斗を追い抜かんばかりの激走。昨年WBC準決勝のメキシコ戦の周東と大谷翔平の"追いかけっこ"を彷彿とさせて大きな話題を呼んだが、殊勲打の今宮の勝負強さが光った場面だった。
注目すべきは今宮の打順だ。今季レギュラーシーズンでもクライマックスシリーズでも、はたまたオープン戦ですら一度もなかった3番で起用されたのだ。これには正直驚いた。試合前の記者室もどよめいた。日本シリーズ第1戦の大一番を前に各社は予想打順を組んだのだが、「ウソだろ」「これは当たらないよ」と嘆きの声が上がっていた。
1 / 3
著者プロフィール
田尻耕太郎 (たじり・こうたろう)
1978年生まれ、熊本市出身。 法政大学で「スポーツ法政新聞」に所属。 卒業後に『月刊ホークス』の編集記者となり、2004年8月に独立。 九州・福岡を拠点に、ホークスを中心に取材活動を続け、雑誌媒体などに執筆している。