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9回4点を追いつかれた江川卓は宇野勝に「騙すなよ」と言った ドラゴンズ史に残る伝説の1982年9月28日・巨人戦

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

連載 怪物・江川卓伝〜宇野勝が振り返る伝説の一戦(前編)

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「ウーやん」こと宇野勝は、1980年代の中日で絶大な人気を誇ったスター選手。愛されキャラゆえ、少々ヤンチャなことをしてもなんか憎ない選手がどこのチームにもひとりはいるものだ。宇野がまさにそうだった。

 宇野がヤンチャということではなく、プレーそのものが妙にコミカルさをまとった異質なプレーヤーだった。大胆なエラーをしたり、豪快な三振を喫したりとどこか抜けている雰囲気を漂わせながらも、「ここぞ」という場面で大ファインプレーを見せたり、値千金の大ホームランを放つ。それが宇野の魅力でもあった。

84年に遊撃手として初の本塁打王を獲得した宇野勝 photo by Sankei Visual84年に遊撃手として初の本塁打王を獲得した宇野勝 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る

【江川卓から10本のホームラン】

 1984年に遊撃手として史上初のホームラン王に輝くなど、脇を閉めたパッティングフォームから豪快なフルスイングでファンを魅了した。さらに、フライをおでこに当てる(宇野のヘディング事件)など失策シーンがクローズアップされるため堅実な守備というイメージはないものの、じつはタイムリーエラーはほとんどなく、ショートとして十分合格点を与えられる働きをしていた。

 その宇野に江川卓との通算対戦績を告げると、こんな反応が返ってきた。

「140打数37安打、打率2割6分4厘、ホームラン10本ですかぁ。10本も打っている印象はあまりないですね。江川さんと対戦し始めた頃は、まだ7番や8番と下位打線だったので、力を入れて投げてないんじゃないですかね。江川さんって、得点圏にランナーがいる時や、上位打線じゃないと力入れないですから。僕の時は全力ではなかったと思いますよ」

 歴代中日選手のなかで江川から最もホームランを打っている宇野であるが、当の本人は10本も打っている印象がまったくないという。

 80年代前半、中日にとって江川は天敵であり、とくに82年は1試合14奪三振など、完全にカモにされていた。

 まったく手も足も出なかった怪物に対して、中日の選手が一丸となって奇跡的なシーンを演出したのが、82年9月28日のナゴヤ球場での試合。中日ファンにとって、これほどファンタスティックでスリリングな展開を見たことがないほど、球場全体が興奮の坩堝(るつぼ)と化した"伝説の一戦である"。

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著者プロフィール

  • 松永多佳倫

    松永多佳倫 (まつなが・たかりん)

    1968 年生まれ、岐阜県大垣市出身。出版社勤務を経て 2009 年 8 月より沖縄在住。著書に『沖縄を変えた男 栽弘義−高校野球に捧げた生涯』(集英社文庫)をはじめ、『確執と信念』(扶桑社)、『善と悪 江夏豊のラストメッセージ』(ダ・ヴィンチBOOKS)など著作多数。

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