「巨人だからチャンスがないという選手の環境を変えたかった」元プロスカウト・香坂英典が語るトレード成功のための裏話
元巨人・香坂英典が語る「プロスカウト」のお仕事(前編)
プロ野球のスカウトといえば、アマチュア選手の獲得に動く担当。では、プロスカウトをご存じだろうか。その名のとおり、プロ選手のスカウト。つまり他球団の選手を、おもにトレードやFAで獲得する際のデータ収集をして、シーズンを通してチェックするのが仕事だ。そんなプロスカウトを巨人で都合10年間務めてきたのが香坂英典氏である。はたして、プロスカウトとはどのような仕事なのか、香坂氏に聞く。
巨人でプロスカウトをしている頃の香坂英典氏 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【トレードは誇れるもの】
「トレードといえば、今でも"出す""出される""放出"というイメージがありますけど、実際は違います。環境を変えることで、実力を発揮する選手はいます。トレードは望み、望まれて実現するもの。選手の立場としては誇れるものであり、むしろ胸を張って新しい環境に臨んでほしいと思ってやっていました」
香坂氏が巨人を退団し、プロスカウトの仕事から離れて3年が経つ。それでも今も現職のように熱を込めて語るのは、それだけ彼がこの仕事にやりがいを持ち、天職のように励んでいたからにほかならない。
それにしても、このプロスカウトという仕事は想像以上に多岐にわたり複雑だ。
「トレード担当ですから、基本的には全球団の選手を知る必要があります。知るというのは、ただ名前と顔が一致すればいいというレベルじゃない。技術面では長所、短所、性格やプレー以外の立ち振る舞いまで知る必要があります。それを一軍、二軍、三軍や独立リーグまで視察し、把握していく。自分のチームの選手も加えれば、概算で800人くらいになるかな。もちろん1年では完全に網羅するのは無理です。少なくとも3年くらいを要してようやくわかってきます」
香坂氏の場合、投手として巨人入りしたが5年で引退。その後はスコアラーや広報などを歴任するが、コーチ経験はなかった。それだけに"現場感覚"として、他チームの選手を知る機会に乏しかったから大変だった。それでも日々視察を続けるうちに顔と名前はおろか、いろんなことがわかるようになってきた。
1 / 4
著者プロフィール
木村公一 (きむらこういち)
獨協大学卒業後、フリーのスポーツライターに。以後、新聞、雑誌に野球企画を中心に寄稿する一方、漫画原作などもてがける。韓国、台湾などのプロ野球もフォローし、WBCなどの国際大会ではスポーツ専門チャンネルでコメンテーターも務める。