ギリギリの出場、主将離脱、父子鷹...。東海大相模が劇的ストーリーで10年ぶりの優勝

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 できすぎにも思えるストーリーが完結した瞬間だった。

 第93回センバツ高校野球決勝の東海大相模(神奈川)対明豊(大分)戦。9回裏一死満塁で3番・小島大河の打球がショートのグラブをはじいた瞬間、"相模物語"は最高のエンディングを迎えた。

サヨナラで明豊を下し、10年ぶりのセンバツ制覇を果たした東海大相模ナインサヨナラで明豊を下し、10年ぶりのセンバツ制覇を果たした東海大相模ナイン 圧倒的な戦力を誇る学校以外が甲子園で優勝するためには、スターかストーリーが必要というのが筆者の持論だ。

 今大会は絶対的な本命校がなく、延長戦が大会最多タイの7試合と各校とも戦力差はなかった。そんななか、一番の"ストーリー"を持ったチームは仙台育英(宮城)だった。

 東日本大震災から10年、島貫丞主将が選手宣誓を務めた。さらには、100年を越える高校野球の歴史でいまだ達成されていない東北勢初優勝の夢もかかっていた。だが、準々決勝で敗退。その仙台育英を破った天理(奈良)のスター候補・達孝太、さらには中京大中京(愛知)の畔柳亨丞も準決勝で敗れた。

 決勝に進んだのは東海大相模と明豊。この2校には、ストーリー性だけで見れば差があった。

"相模物語"の始まりは昨年の秋。関東大会の準々決勝で東海大甲府に敗れたところから始まる。9回裏一死まで1対0とリードしながら、その後2点を取られて逆転サヨナラ負け。関東5校目としてギリギリでセンバツ出場を果たしたが、甲子園切符が消えかけた敗戦だった。

 そして2月23日のセンバツ抽選会。初戦で再び東海大甲府との対戦が決まる。東海大相模の門馬敬治監督はこう振り返る。

「サヨナラで負けた悔しさを感じながら、1パーセントの可能性を信じて、(甲子園に)選ばれることを願っていた。組み合わせが決まったら、くしくも東海大甲府だった。神様に『おまえたちは東海大甲府とやるんだぞ。どれだけ本当に頑張ってきたの? どれだけ真剣にそのこと(敗戦)を受け止めたの? どれだけ自分を変えようとしてきたの?』と試される場を用意してもらった」

 東海大甲府との一戦は延長11回にもつれ込む熱戦、なんとか3対1でリベンジを果たしたが、準々決勝の前に思いもよらないことが起きた。

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