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金メダルを目指しながら予選敗退 パリオリンピックの本多灯に起きたレース直前の異変

  • 栗原正夫●文 text by Kurihara Masao

本多灯インタビュー(2)

 パリ五輪の競泳男子200メートルバタフライで、金メダルを目標にしながら予選敗退に終わった本多灯(22歳、イトマン東進)。その様子を現地で見守っていたイトマンの堀之内徹コーチは、レース直前に本多の異変を感じ取っていた、と振り返る。

 レース当日、日本代表から外れていた堀之内徹コーチは、会場となったパリ・ラ・デファンス・アリーナのスタート側のスタンド下段で、教え子である本多の様子を眺めていた。

「予選前のアップの際に、スタンドごしに灯と話をした時は普通だったんです。ただ、レース直前に会場のオーロラビジョンに招集所の様子が映し出されると、どうもおかしい。ふだんの灯は軽く体を動かしたり、他の選手と言葉を交わしたりしているのですが、びっくりするくらいきちんとイスに座っていて。

 それで、1組目が終わって2組の灯が入場してくると、何か俯き加減で、前の選手に頭がつくくらい不自然な状況で入場してきたんです。いつもなら入場の際に名前が紹介されると、リラックスした表情でこぶしを突き上げるなど、会場にアピールしながら入ってくる灯が、ですよ。そこで僕はマズいと思って、大きな声を出して灯の名前を呼んだのですが、すでに会場は満員でしたし、スタンドからの声が届くわけはないですよね」

 直後にスタートを切った本多は、本来の泳ぎをまったく見せることなく、2度目の五輪の舞台から姿を消すことになった。

パリ五輪の競泳男子200メートルバタフライでまさかの予選敗退に終わった本多灯 photo by Kishimoto Tsutomuパリ五輪の競泳男子200メートルバタフライでまさかの予選敗退に終わった本多灯 photo by Kishimoto Tsutomuこの記事に関連する写真を見る 現場でレースを撮影していたカメラマンも、本多の様子がいつもと違っていたと話している。本多はレース前、右手でスタート台に触れ、ジャージを脱ぎスタート台に上がると、顔の筋肉をほぐすように大きく力強い笑顔を作るのだが、その動きにいつもの力強さを感じなかったというのだ。

 本多自身には、レース直前の記憶はどのように残っているのだろうか。

「堀之内コーチが入場の際に僕の名前を呼んでいたみたいですが、まったく聞こえてなかったですね。競泳をやっていた人なら子どもの頃、練習では早く泳げるのに、レースになると緊張で肩が上がってしまい、思ったように泳げなかったっていう経験があるかもしれません。いま思えば、そんな状態だったんだと思います。なんか余計な力が入り過ぎて、体がカチカチみたいな。僕もうっすらとした記憶しかないのですが、たぶん、レースをしたくなかったのかな、と。

 調子の良し悪しを含め、自分がまったく見えていなかった。ただ、体の調子は悪くなかったので、アップの時までは、なんとなく泳げてしまった。だから、やっぱり気持ちの問題。泳ぎたくないって気持ちが少しでもあれば、どうしても体はそれに引っ張られてしまいますからね」

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