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箱根駅伝2025 2年前、直前のケガで最後の箱根を走れなくなった國學院大主将・中西大翔は「なんでこんな時に」と涙を流した

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

中西大翔(旭化成)インタビュー(前編)

1年時から学生三大駅伝すべてに出場していた中西だったが...。photo by SportsPress/AFLO1年時から学生三大駅伝すべてに出場していた中西だったが...。photo by SportsPress/AFLO

【リスペクトするふたりの先輩キャプテン】

 中西大翔(旭化成)が國学院大のキャプテンに就任したのは、2022年の第98回箱根駅伝の終了後だった。

「キャプテンの仕事は自分にこないでほしい思っていました。高校時代は部員が5、6名しかいなくてチームをまとめるという経験がなかったんです。正直、60人の部員の前で話をするのも、チームをまとめることにも苦手意識があったのでビビっていました」

 中西は歴代のキャプテンである土方英和(現・旭化成)や木付琳(現・九電工)のようになれるのか不安だったが、前田康弘監督の言葉に救われた。

「自分らしく、大翔らしく自分のやり方で引っ張っていけばいいよと言ってもらえたんです。その言葉ですごく気持ちがラクになりました」

 中西がリスペクトしていたのは、土方と木付のキャプテンシーだ。ふたりとも34年の2年間、キャプテンをまかされ、チームをまとめるなど手腕を発揮した。中西は理想のキャプテン像をこのふたりに重ねていた。

「ふたりがチームを引っ張っていく姿は、非常に安心感がありました。この先輩についていけばチームとして勝っていけるんじゃないか、成長できるんじゃないか、この先輩についていこうという気持ちさせてくれました。走りはもちろん、言葉でもチームを引っ張っていくところがふたりにはあって、ミーティングや練習後の反省会での言葉にすごく魂がこもっているので心に響くんです。そういう言葉を持っている先輩方だったので、自分にとっては理想のキャプテンでした」

 ふたりのようにはなれないかもしれないが、自分がどのようにチームを牽引していくのか。中西は4年生を集めて話をし、理解を求めた。

「自分は言葉で引っ張っていくのが苦手なので、まずは走りで引っ張っていきたい。各学年隔たりなくコミュニケーションを取って仲良くして、締めるところは締めていく。生活面では1年生がリラックスして寮に入れる環境作りを意識してやっていこうという話をしました」

 中西がそう思ったのには理由があった。前年度のチームは4年生に力があるがゆえに結果を求め、チーム内に甘えを許さない張り詰めた空気が漂っていた。

「自分が3年の時、1年生が伸び伸びやれていないような感じがあったんです。先輩に交わることがなく、1年生だけで固まり、うまく溶け込めていない感じがありました。自分は、上下関係を含めて締めすぎるのはよくないと思っていましたし、寮生活を含めてもっと楽しめる環境があってもいいかなと思ったので、そこは自分の代で変えていきました」

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著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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