國學院大・平林清澄「駅伝に勝って勝負に負けた」の真意 エースの背中が導く三冠への道
チームを優勝に導く走りを見せた國學院大・平林 photo by Kyodo News
全日本大学駅伝で念願の初優勝を遂げた國學院大学。出雲駅伝に続き、二冠達成の喜びに沸くなか、伊勢路のエース区間で先頭に立てなかった平林清澄は悔しさも口にした。最終目標である箱根駅伝の初制覇に向け、伊勢路で見えたものとは――。
【レースに勝ち、勝負に負けた悔しさ】
伊勢路では4年連続して、7区のスタートラインに立った。各校のエースが集うコースの特性は、完璧に頭に入っている。過去に出場したレースは、映像でも見返してきた。2年時は駒澤大の田澤廉(現トヨタ自動車)、青山学院大の近藤幸太郎(現SGホールディングス)に力の差を見せつけられ、エースのあるべき姿を学んだ。経験を積んだ3年時には他大学の主力に負けずに念願の区間賞を獲得。そして、迎えた4年目は主将としてチームを初優勝に導くのが大きな役割だった。
大黒柱の平林は、バツが悪そうな顔で、17.6kmを振り返る。
「6区の山本歩夢(4年)がタスキをつないでくれ、『決めてこい』と言われたのになかなか追いつけなくて」
スタート時点で先頭を走る青山学院大との差は、わずか4秒。心は落ち着いていた。序盤からハイペースでぐんぐん突き進む太田蒼生(3年)を追いかけず、一定のペースを保っていた。左手首に巻いた時計に目を落とし、要所でラップタイムを確認。10km地点で16秒離れていたが、13kmで8秒とじりじりと差を詰める。15km手前ではついに背中を捉えて前に出た。ここで一気に突き放すかと思われたが、状況は一転する。15.5km過ぎで抜き返され、そのまま逃がしてしまったのだ。
大きな差を広げられたわけではない。先頭と4秒差はスタート時と変わらず、アンカー区間の8区へつないだ。区間タイムは前年度よりも1分速い50分07秒、太田と同タイムの区間2位。平林は走り終えると、アスファルトに倒れ込みながら苦悶の表情で「ごめん」という言葉を漏らした。
「走り終えて、前田(康弘)監督に電話を入れたときには泣いてしまいました。駅伝というレースでは勝ちましたが、自分のなかで勝負には負けたと思っています。記録的には(区間賞の)篠原倖太朗選手(駒澤大4年)にも負けましたし、ダブルパンチを食らった感じです」
今季、箱根駅伝の総合優勝を目標に掲げる上で、主将の平林が徹底してきたのは出場したレースで"勝ちきる"ことだった。何よりも重きを置くのは、タイムよりも強さ。出雲路ではそのスピリッツを体現。駒澤大の篠原とのアンカー勝負を制し、優勝の立役者となった。それだけに伊勢路の走りには、どうしても納得できなかった。
「タイムは悪くないのですが、出雲は僕が区間賞で、篠原選手と太田選手は同タイムで区間2位でした。全日本の区間賞は篠原選手、僕と太田選手は同タイムで2位。やっぱり、それは悔しいですよ」
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著者プロフィール
杉園昌之 (すぎぞの・まさゆき)
1977年生まれ。サッカー専門誌の編集記者を経て、通信社の運動記者としてサッカー、陸上競技、ボクシング、野球、ラグビーなど多くの競技を取材した。現在はジャンルを問わずにフリーランスで活動。