関田誠大は「チームを勝たせられるセッター」連続逆転勝利で見せた戦術的才能の一端
試合前のウォーミングアップ。何気ないオーバーハンドパスだったが、ボールは生きているように弾んだ。
関田誠大がボールに触ると、命を吹き込むようだった。張り詰めた臀部、しなやかなハムストリグ、太い体幹。それぞれが連動し、肩、腕、そして指先にまで神経が行き渡っている。ボールのどこを、どのタイミングで強く柔らかく押せば、どんな軌道を描くのか、それを知り尽くしているのだ。
関田の凄みは、"ボール扱いがうまい"で収まらないところにある。戦略的な視点。それがチームの浮沈につながっている。
「周りのよさを引き出すのが、自分の仕事」
関田は言う。攻守を司る男の矜持である。
セッターとして日本代表を牽引してきた関田誠大(ジェイテクトSTINGS愛知)©SV.LEAGUEこの記事に関連する写真を見る 10月19日、エントリオ。ジェイテクトSTINGS愛知は、ウルフドッグス名古屋の本拠地に乗り込んでいる。それぞれが岡崎市、稲沢市をホームタウンにする愛知のライバル、というだけでない。サントリーサンバーズ大阪や大阪ブルテオンを含めて、優勝を争う強豪同士の対決だった。両チームとも人気選手が多く、会場には女性を中心に満員の観客が詰めかけ、熱気が立ち込めていた。
第1セットは、ウルフドッグスが先手を取る。オポジットのニミル・アブデルアジズがパワフルな一撃を連発。セッターの深津英臣の多彩なセットアップで、山崎彰都もセンスを発揮。そしてエース、高梨健太のサーブがさえ渡って、それがブロックの強さを引き出すと、一気に点差を引き離していった。大歓声にもあと押しされ、25-17で制した。
「新しいチームで、新しいメンバー」
ミハウ・ゴゴール監督がそう説明したように、ジェイテクトは戦い方を模索していた。それが、前節はVC長野トライデンツに敗れる波乱を引き起こし、この日も出足は押される形になった......。
その流れを変えたのが、ジェイテクトの攻守を司るセッター、関田だ。
「1セット目を取られても、先週よりよくなっていて、チームとして戦っている感じが楽しかったです。絶対に勝てる、とは思って臨んでいたので......」
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。