石川祐希はパリ五輪の「重力」から解き放たれるか 強豪ペルージャでの挑戦が始動
8月20日、日本代表のエースでキャプテンでもある石川祐希(28歳)のイタリア、セリエA王者シル・サフェーティ・ペルージャ入団が、クラブ公式SNSなどで歓迎されている。
ペルージャは昨シーズン、セリエAで優勝しただけなくイタリアカップも制覇し、世界クラブ選手権王者でもある。イタリア代表のシモーネ・ジャネッリ、ポーランド代表のウィルフレド・レオンなど世界有数の選手を擁する超強豪で、今や無敵を誇る。
その一員に、石川は迎えられた。ひとりのバレーボール選手として、"白か黒か"のシンプルな勝負になる。
パリ五輪での石川は「重力」を感じていたはずだ――。
セリエAのペルージャで新たな戦いに挑む石川祐希 photo by Nakamura Hiroyukiこの記事に関連する写真を見る 7月25日、五輪会場のパリ南アリーナまでトラムで15分ほどの体育館で、日本は練習していた。練習後の取材を受けた石川は、全身が決意で満ちているようだった。「初戦ドイツに必勝」という意気込みが出ていた。
「最初のドイツ戦(を勝つことで)、決勝トーナメント進出(につなげるの)が大事。その先は常にピークの試合ができるチームになっているので。初戦を勝って勢いをつける......というより、勝てれば勢いは自然についてくる」
石川はそう力説していた。ネーションズリーグで昨年3位、今年2位の日本は「金メダル」が期待され、挑戦される側だった。裏を返せば、予選ラウンドで「勝って当然」の重圧を意味していた。
結果、日本はドイツに2-3とフルセットの末に敗れている。
7月31日、石川はアルゼンチン戦で相当な重圧を受けていたに違いない。1セット目は奪ったが、2セット目は終始、リードされる展開だった。ラリーのあと、石川がバックアタックを撃ち抜き、16-17と1点差に。「俺にもってこい」という覇気が漲り、獲物を狩る肉食獣の苛烈さがあった。さらに石川はバックアタックの跳躍に入ると、観客も含めて"騙す"。「フェイクセット」で西田有志へのトスを選択し、どよめきのなかでスパイクが決まった。これで勢いを得て、25-22と逆転でこのセットを取った。
結局、3-1と勝利。石川は主役のひとりだった。抜群の集中力と度胸。何より、実力が際立っていた。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。