パリオリンピック男子バレー 日本を守備で支える山本智大はなぜいつも笑っていられるのか
「(スパイクを)いつも『打ってこい』って思っていますね」
リベロの山本智大は楽しそうに言う。守備専門のポジションの矜持(きょうじ)か。大砲のような一撃を放つスパイカーを躊躇わせる。そのディグ(スパイクレシーブ)は、世界でも1、2を争う。
「緊張はしないですね。プレッシャーも含めて楽しめるタイプなんで。だから、そういう時には周りに声をかけたり、"いつもどおりいこうぜ"って言っていますね。コートでは自分だけじゃないので。バレーボールは、みんなで協力して勝つスポーツだから」
ディグのスキルは飛び抜けているが、驕りはない。彼の防御の真骨頂は、周りを使い、使われる点にある。そうしてスパイクを誘い込み、荒れ狂うボールを手なずけてしまう。
その瞬間、彼は込み上げる笑いを堪えられないように映る。
アルゼンチン戦でもリベロとして守備でチームを支えた山本智大 photo by Nakamura Hiroyukiこの記事に関連する写真を見る 7月31日、パリ南アリーナ。パリオリンピック男子バレーボール予選で、日本はアルゼンチンを3-1と破っている。ドイツ戦の黒星を挽回するように1勝1敗とした。次戦、アメリカ戦に決勝トーナメント進出をかけることになった。
そのアルゼンチン戦でチームを支えていたのが、リベロの山本だ。
山本は試合前から、コートで誰よりも笑顔だった。ふたり一組のスパイクレシーブ練習、大塚達宣の強烈な一撃を、勢いを殺しながら上げる。そのやりとりを心から楽しんでいるようだった。釣られるように、大塚も笑みを漏らしていた。
負けたら終わりのオリンピックの試合直前である。肝が据わっているというのか、一種の狂気か。「笑うリベロ」だ。
「(ドイツ戦後)がむしゃらになるのもいいけど、頭を落ち着かせて、『冷静にボールの判断、スパイクの打つところを確認していこう』と話をしました。『金メダルを狙う』と言ってますけど、まず予選を突破しないことには始まらない。次のアメリカ戦を考えず、アルゼンチンにしっかり勝って、と思っていたので、かける気持ちは強かったですね」
かける気持ちは強かったが、大舞台でバレーを楽しむ、という嬉しさのほうが勝っていたのか。相手のスパイクを次々と上げる。そこには攻撃者を絶望させる冷酷さすら感じさせた。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。