18歳エンドリッキがレアル・マドリードで日々進化 歴代ブラジルFWにはない魅力とは?
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第16回 エンドリッキ
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回は、レアル・マドリードに新加入した18歳FWエンドリッキ。歴代のブラジル人ストライカーにいないという、そのプレースタイルは?
【"ビースト"(野獣)を感じさせる力強さ】
CLリーグフェーズ第1戦で、レアル・マドリードのエンドリッキが決めたゴールが話題になっていた。
レアル・マドリードに新加入の18歳のブラジル人FWエンドリッキ photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る ホーム、サンティアゴ・ベルナベウにシュツットガルトを迎えたレアル・マドリードは2-1のリード。エンドリッキのゴールはアディショナルタイムの90+5分だった。相手のFKをダニエル・カルバハルがクリア、というより前方のエンドリッキへ丁寧にパス。自陣ペナルティーエリア外で受けたエンドリッキはドリブルで駆け上がる。そして敵陣のペナルティーエリア手前で左足を振ると、ワンバウンドしたボールはGKの手をはじいてゴールイン。
このゴールにはふたつの驚きがあった。
ひとつはそのシュート力。左足を軽く振っただけに見えたのに、ボールの勢いは凄まじかった。低く抑えたシュートはコースもよかったが、何よりあのモーションであれだけの速度のボールが行くとは想像できなかった。まだボックス(ペナルティーエリア)まで運べる余裕があったのに、いきなり打ってきたのはGKにとって想定外だったろうが、シュートの強さそのものが意表を突いていた。
ただ、それ以上の驚きは、エンドリッキの右にはヴィニシウス・ジュニオール、左にキリアン・エムバペがいたこと。二大エースを差し置いて、ペナルティーエリアにも入らぬうちからシュートした強心臓に驚かされた。
エンドリッキの後方にはアルダ・ギュレルとフェデリコ・バルベルデも来ていて、局面的には5対2。このメンバーなら何をどうしても得点できる状況だった。ヴィニシウスはエンドリッキの左側から右へ回り込んでいて、それがブラジル代表の先輩であることは間違いなく認識していたはずだ。あの距離からのシュートは、さまざまな選択肢のなかでも確率は比較的低い。もし決まっていなければ、厳しく非難されていたに違いない。
ストライカーはエゴイストだとよく言われる。18歳のエンドリッキもまたそうなのだろう。しかしそれ以上に、この場面で感じたのは彼が"ビースト"だということ。
ビーストの意味は野獣であり、通常はいい意味には使わないが、スポーツや音楽では超人的な能力に対する者への感嘆の言葉としても使われている。シュートの威力は超人的だった。そしてメンタルは怪物的で、同時に本能的な強靭さが表われていた。まさに野獣の生存本能のような力強さだった。
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著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。