脱ポゼッションで初のベスト4。潔い佐野日大の「守り一辺倒サッカー」

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 松岡健三郎●撮影 photo by Matsuoka Kenzaburo

 それは、目を疑うような光景だった――。自陣でボールを奪ったディフェンダーが、味方がいないにも関わらず、前方へと闇雲に大きくボールを蹴りだしていく。これが逃げ切りを目的とした終了間際ならまだしも、まだ試合は0-0の前半の最中である。

守備的スタイルに方向転換して同校初のベスト4進出を果たした佐野日大守備的スタイルに方向転換して同校初のベスト4進出を果たした佐野日大「点、獲りに行けよ!」

 相手の応援席から、そんなヤジが飛ぶ。それでも彼らは、人数をかけて後方を固め、攻め込んできた相手をただひたすらに跳ね返し続けた。

 サッカーというスポーツの本質が「点を奪い合うこと」にあるとすれば、それは"アンチ・フットボール"と揶揄(やゆ)されても致し方ないものだった。もし、これがプロの興行ならば、間違いなく批判されるだろう。

 しかし、高校サッカーの魅力が学校ごとの特色にあるとすれば、それは確かな個性として受け止められる。とりわけ、ひと昔前と比べ、画一的で平均化された現在の高校サッカーにおいて、彼らが示した潔(いさぎよ)いまでの守備的スタイルは、むしろ好感が持てるものだった。

 いよいよ佳境を迎えた今年の全国高校サッカー選手権。佐野日大(栃木県)が駒澤大高(東京都A)を2-1で下し、同校史上初となるベスト4進出を決めた。

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