広島・矢崎拓也「自分がやらかすことに飽き飽きした」入団から失意の5年を振り返る

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun
  • photo by Sankei Visual

広島・矢崎拓也インタビュー(前編)

 10月14日からプロ野球はクライマックス・シリーズ(CS)が幕を開ける。セ・リーグは、新井貴浩新監督のもと2位と躍進した広島が3位DeNAを本拠地・マツダスタジアムで迎え撃つ。なかでも注目は、自身初のポストシーズンとなる7年目の矢崎拓也だ。昨季を上回るキャリアハイの54試合に登板し、4勝2敗24セーブ、10ホールド。栗林良吏が不在の間は抑えとしてチームを支えた。マウンド上での飄々とした立ち居振る舞いや独特の表現は、一部のファンの心をつかむ。我流を貫く右腕に「過去」「現在」「未来」を訊いた。

ルーキーイヤーの2017年にプロ初先発・初勝利を挙げた矢崎拓也だったが、そこから長いトンネルに入ったルーキーイヤーの2017年にプロ初先発・初勝利を挙げた矢崎拓也だったが、そこから長いトンネルに入った

【環境の変化に弱い自分がいた】

── 6年目の昨季に飛躍のきっかけをつかみ、今季は抑えを任せられるなど自己最多登板数を更新。プロ入りから思うように結果が出なかった5年間をあらためて振り返ると、どんな時間でしたか。

矢崎 1年目は何もわかっていなかったですね。ルーキーなので、プロ野球自体のことがわかっていなかった。プロはそれぞれのカテゴリーでトップだった選手が入ってくるので、やられることもあるのに、そういう自分を受け入れられなかったというのが一番だったかなと思います。そこで「何かがおかしいんじゃないか」とか「もっとこうなのに」と、もがいていた感じです。

── これまでなら多少の投げミスをしても抑えられていたものが、とらえられるようになったと。

矢崎 そうですね。本来なら「次はやられないためにどうするか」と考えて取り組んでいくことが大事なんでしょうけど、「もっとこう投げたらいいじゃないか」「こういう球を投げられたらな」と、自分の持っているものを疑い始めたんです。でも、自分にないもので戦おうとしても、パフォーマンスを上げられるわけがないですよね。

── 当時は「制球が課題」という指摘もありました。

矢崎 今もそんなにいいわけではないですけど、もともと悪かったのは事実なので、そう言われても仕方ないと思います。プロ野球は毎日試合が続く世界なので、自分を高めながら成長するのが難しい。大学では(春・秋の)リーグ戦が終わって数カ月空くので、そこで自分を変えようとチャレンジできる環境でしたけど、プロは試合が続いていく。そして成績という結果が自分に降りかかってくる。初めてだからしょうがないという面はありますけど、その価値観を早く捨てることができればよかったかなと、今は思います。

1 / 4

プロフィール

  • 前原 淳

    前原 淳 (まえはら・じゅん)

    1980年7月20日、福岡県生まれ。東福岡高から九州産業大卒業後、都内の編集プロダクションへて、07年広島県のスポーツ雑誌社に入社。広島東洋カープを中心に取材活動を行い、14年からフリーとなる。15年シーズンから日刊スポーツ・広島担当として広島東洋カープを取材。球団25年ぶり優勝から3連覇、黒田博樹の日米通算200勝や新井貴浩の2000安打を現場で取材した。雑誌社を含め、広島取材歴17年目も、常に新たな視点を心がけて足を使って情報を集める。トップアスリートが魅せる技や一瞬のひらめき、心の機微に迫り、グラウンドのリアルを追い求める

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る