渡辺久信は「表も裏も知っている」根本陸夫からあえて距離を置いていた (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

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 すると、抽選に臨んだ根本はクジを外し、ヤクルトが高野の交渉権を獲得。外れ1位に渡辺を考えていた浦田だったが、同年日本一の西武はウェーバー指名順が12球団で最後になる。順番が来るまで時間をかけて検討するうち、渡辺は他球団に指名されたと思い込んでしまった。

 もう残っているピッチャーはいない──。浦田が「日通の辻発彦、いこうか?」と根本に問うと、「おう、そうせい」と返ってきて、用紙に名前を書いた直後だった。「浦田さん、これ、渡辺久信って残ってるんじゃない?」と広岡が言ってきて「あっ」となった。

 結局、当初の方針どおりになったが、即戦力の大学生を望んだ広岡が気づかなければ、渡辺はまず間違いなく他球団に指名されていた。渡辺自身、のちに担当スカウトからドラフト会議中の顛末を聞き、運命の不思議さを痛感したという。では、晴れてドラフト1位で入団し、初めて出会った根本の印象はどうだったのか。

「とにかく、あの目で睨まれたら人は動けなくなる、という感じはありましたね。蛇に睨まれた蛙じゃないですけど。恰好も何と言ったらいいのか......普通の一般の方には見えなかったですし。1年目のキャンプの時、ブルペンで投げていて、マウンドの横に立たれた時はもう大変でした。自分の投げ方を忘れるぐらい。広岡さんも同じように怖かったですけどね」

 プロ野球の世界に入って、いちばん強烈に印象に残った人──。渡辺にとって、それが根本だった。恐ろしい見た目に反して、言い方は優しかった。事細かに何かを言われたわけではなかったから、なおさら優しさを感じた。

「キャンプではよく、メジャーリーガーの写真を見せられました。だいたい、ピッチャーのフォームの分解写真みたいなもので。その時、私はトム・シーバーの写真を見せられて、『こういうふうに投げてみなさい』と。同じ右の速球投手で、背番号もたまたま41番で一緒だったので、そこからいろんなところで、トム・シーバーのことが頭に浮かびましたね」

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