2019.09.09

あぶさんのモデル・永淵洋三は、
元祖二刀流から大酒飲みの首位打者に

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

 1976年、日本ハムに移籍後は主にDHと代打で出場。出番が減り、体力の限界を悟った79年に引退し、翌80年はスカウトに転身。自分と同じ小柄の逸材を追いかけるが、大型選手がほしい球団と意見が合わず、ドラフト前に辞任。「いちばん手っ取り早い」と思い、大阪の焼き鳥店で1ヵ月の修業を経て開店。漫画が縁で付き合いがあった水島新司に「あぶさんという屋号をつけます」と連絡し、快諾を得て以来33年間、経営を続けてきた。

 球界から離れて以降、「あんまりプロ野球は見ない」そうだが、71歳(取材当時)の今も還暦野球でプレーを続ける。「まだまだバッティング、わかりません」と苦笑したところからイチロー(元・オリックスほか)、門田博光(元・南海ほか)、松井稼頭央(元・西武ほか)の打撃の共通性が語られていき、野村克也(元南海ほか)のスイング時のステップにまで話がおよんだときには「午後1時頃まで」の予定が2時半になっていた。

 帰りがけ、店内の写真を撮らせてもらおうとしたら、永淵さんは笑い交じりに言った。

「野球のものは何も飾ってませんから。そういうの、大っ嫌いなもんで」

 落としていた照明を点けてもらった。本当に何も飾られていない。しかしよく見るとカウンターの上、瀬戸物の箸入れにあぶさん、景浦安武がいた。帽子を脱いだ額から汗を流す姿は、苦労しながら野球でメシを食っていた永淵さんそのものに思えた。

(2013年9月4日・取材)

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やきとり『あぶさん』は惜しまれながら2018年に閉店

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