2020.06.16

少年野球の危機に、なぜ80歳
「おばちゃん」のチームは大人気なのか

  • 菊地高弘●取材・文 text by Kikuchi Takahiro
  • 石津昌嗣●撮影 photo by Ishizu Masashi

 昨年、大阪で中学野球の取材を終えた後、私は監督と雑談するなかで気になる情報を耳にした。

「吹田に『おばちゃん』って呼ばれている女性がおりまして、道ゆく親子連れに『野球やらへん?』って声かけながら歩いているらしいんですわ」

 教えてくれたのは、大阪府門真市で活動する強豪中学軟式クラブ・門真ビックドリームスの橋口和博監督だった。

 娯楽が多様化したいま、競技人口が激減している野球はメジャースポーツの座から滑り落ちつつある。とくにジュニア世代の「野球離れ」は深刻で、人数をそろえるだけで四苦八苦している少年野球チームは珍しくない。

 橋口監督の教えてくれた「おばちゃん」という人物は、聞けば聞くほど興味深かった。

・選手も保護者も指導者もみな「おばちゃん」と呼んでおり、大阪の少年野球界では有名人。だが、橋口監督は本名を知らない

・ユニホームや道具は「お古」を推奨しており、経済的な負担を極力かけないようにしているらしい

・このご時世にもかかわらず団員数は100名を軽く超えるらしい

 道ゆく親子連れへの勧誘エピソードといい、相当なバイタリティーの人物であることがうかがえる。また、野球界の未来を考える上で、「おばちゃん」から大きなヒントが得られる予感がした。

 聞けば橋口監督の友人である樋口豪監督(北豊中友好会)の次男が、「おばちゃん」の少年野球チームに所属しているという。私は樋口監督を介して、「おばちゃん」に会いにいくことにした。

「あぁ、どうも、はじめまして。棚原(たなはら)です」

「おばちゃん」こと棚原安子さん。80歳の今も現役の少年野球指導者だ
 吹田市の喫茶店に「おばちゃん」は現れた。髪色は薄い銀色に染まり、顔にはしわが刻まれている。だが背すじはピンと伸び、明朗な語り口で、いかにもかくしゃくとしている。60歳過ぎの年頃に見えたが、初対面で女性に年齢を尋ねることははばかられた。だが、おばちゃんは挨拶もそこそこに、さらりとこう述べたのだ。

「私も79になりましたけど、ヒザや腰を痛めたことは一度もないんですわ」