井上尚弥に憧れ鳴り物入りのプロデビュー「モンスター2世」坂井優太の少年時代

  • 杉園昌之●取材・文 text by Sugizono Masayuki
  • 山口裕朗●写真 photo by Yamaguchi Hiroaki

坂井優太は、自分の立ち位置を俯瞰できる冷静さも併せ持つ photo by Yamaguchi Hiroaki坂井優太は、自分の立ち位置を俯瞰できる冷静さも併せ持つ photo by Yamaguchi Hiroakiこの記事に関連する写真を見る

プロボクサー・坂井優太インタビュー前編

 周囲の期待どおり、バンタム級6回戦で圧巻の2回TKOでプロデビューを飾った坂井優太。世界4団体スーパーバンタム級統一王者の井上尚弥が所属する大橋ボクシングジムの大型新人である。アマ戦績は52戦50勝(7RSC)2敗。高校6冠、世界ユース選手権優勝の実績を引っ提げ、鳴り物入りでプロ入り。『モンスター2世』と呼ばれる19歳の才能は、いかにして育まれたのか――。

【「パンチをもらわないところを見てもらいたい」】

 試合前からメディアには『モンスター2世』の見出しが並んでいた。そして、韓国スーパーバンタム級3位キム・ジヨンを迎えた6月25日の後楽園ホール。1回から前評判どおりの鋭い左ストレートを打ち込み、鮮やかな右フックのカウンターでもダウンを奪取する。鮮烈なデビュー劇を伝える記事は、井上尚弥の異名とともにすぐさまネット上を駆け巡った。予想以上に周囲の反響は大きかったが、坂井本人に浮かれた様子はまったくない。

「僕自身は、何も変わらないです。(モンスター2世と書いてもらうのは)うれしい反面、重圧もあります。それに見合った試合をしないといけないので」

 初舞台から約1カ月。あらためてプロ第1戦を振り返ると、力みがあったのは否めないという。アマチュア時代のインターハイや世界ユース選手権でも平常心を保って戦えたが、プロのリングは違った。それは不安からくる緊張ではない。

「大きな期待に応えたいという思いが強かったんです。3回、4回に倒すつもりが、1回からいってしまって。ただ、映像を見返すと、軽いパンチでもタイミングよく当たれば倒れるんだな、と思いました。もちろん、逆もしかりですけどね」

 プロでの1試合の重みは、ひしひしと感じている。キャリアの浅い段階でひとつでも黒星がつけば、将来のプランも軌道修正を強いられる。とはいえ、勝負に徹してリスクを回避した戦い方を選ぶつもりはない。リングでインパクトを残さなければ、評価が上がらないことも理解している。プロボクサーになったことを実感しながら自らに言い聞かせる。

「やっぱり、プロは魅せないと。"塩試合(つまらない試合)"のような展開になるのはよくないですよね。アマとは違いますから。ただ勝てばいいわけではないので。お客さんも面白さを求めて足を運んでくれていると思います」

 憧れのボクサーは、デビュー当初から大きなプレッシャーに負けず、期待に応え続けている井上尚弥。普段から吸収できるものは取り入れている。最もお手本にするのは、ボクシングに向き合う姿勢だ。考えて一つひとつの練習を打ち込む姿を見ていると、刺激を受けることも多い。隣にいるだけでピリッと引き締まる空気を肌で感じる。

「周囲に期待され、あれだけの重圧に毎回、打ち克てるのは、集中して1日1日の練習をしているからなんだなって」

 坂井はモンスター2世と呼ばれるが、KO率88.8%のハードパンチャーとしてファンを魅了する井上のスタイルとは違うという。兵庫県尼崎市育ちのサウスポーは、幼少期からトレーナーでもある父親の伸克さんとともにオリジナルの形を追求してきた。地元のスターである元世界3階級制覇王者の長谷川穂積、元WBC世界バンタム級王者の山中慎介らのボクシングを参考にすることもあった。

「僕には僕のボクシングがあります。最大の持ち味はフットワーク。パンチをもらわないところを見てもらいたいです。相手を翻弄し、どんどん空振りを取っていきたい。デビュー戦でも本当は、その路線でいくつもりだったんですけどね(苦笑)」

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