辞任から続投へ。ジュビロ名波監督が味わった残留確定後の壮絶な90分 (3ページ目)

  • 原田大輔●取材・構成 text by Harada Daisuke
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

――そのやり取りは会見前の話ですよね。

「そう。結局(進退の)結論が出ないまま、まずは試合後のストレッチをこなしながら(自分を)待っている選手たちのところに行って、最初に謝った。そして、『みんなの力でチームを残留させてくれた。みんなの力で、来シーズンはチームを好転させてほしい』と伝えた。

 そのあと、自分としては(選手やスタッフに挨拶するのも)最後になると思っていたから、ロッカールームや風呂場も覗いて、みんなの顔をひと通り眺めてから、『(会見に)行ってくるわ』といった感じで、ポーカーフェイスを装って会見場に向かった。

 試合後の記者会見に臨むにあたっては、『今日は、質問はナシで』とお願いしていた。その分、小さな紙に話す内容のテーマを箇条書きしておいた。この日の試合の内容について、1年間の総括について、残留争いをしたなかでのメンタリティについて、それと自分の進退について......」

――自らの進退についても、ですか。

「選手たちのところでは言わなかったけど、会見の場で『(監督を)辞める』と言おうと思っていたから。それで、メモした紙を握り締めて会見場に向かったら、入口のところに妻が立っていたんだよね。聞けば、『社長に"ここに立っていてくれ"と言われた』って。『だから、意味もなく立っている』と。

 そこで、自分はピンと来て......。社長は、自分が会見で無謀なことを言わないようにさせようと。正気に戻らせるというか、冷静にさせるには、これしかないと思ったんだろうなって。それで、さすがに踏みとどまったというか......。結果的に会見では自らの進退については、濁した言い方をしたんだよね」

――監督続投へ、気持ちが傾いたのでしょうか。

「いや、まだ。会見を終えたあとも、まだ辞めるつもりだったんだけど、とりあえずお風呂に入ろうと思って、風呂場に行ったんですよ。すると、そこには試合に出られなかったベテランメンバーがいて......。松浦(拓弥)、宮崎(智彦)、八田(直樹)、藤田(義明)、(太田)吉彰ら、5、6人の選手たちがいたかな。

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