サッカー日本代表に上々の辛勝。ブラジルは手を焼いたが「課題が出ただけ」だった

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

ゴールを決めた後に踊るネイマールとルーカス パケタゴールを決めた後に踊るネイマールとルーカス パケタこの記事に関連する写真を見る「僕たちブラジル人には『ジンガ』がある。それが違いだ」

 FCバルセロナ時代、ブラジルの英雄ロナウジーニョに話を聞いた時、彼はそう洩らしていた。

 ジンガは「よたよた歩く、ふらふらする」という意味だが、語源のほうに意味がある。それは護身術のひとつであるカポエラに由来し、低い重心で上半身をゆらゆらと揺らし、巧みに身を守るときのリズムと言われる。その律動は自然発生的で、サンバに派生したという説もある。

「ジンガのリズムは体内から湧いてくる。意味自体は体をスイングさせることだけど、もっと感覚的のもので。たとえばドリブルしている時に、方向や動きを変えるフェイントで自然に出る。そのリズムが個性で、ジンガなのさ。僕のドリブルはリズミカルと言われるけど、自分自身でもどういうプレーをするか、決めていない。その時の感覚に委ねていて、ジンガがドリブルを生み出すんだ」

 6月6日、東京。ブラジルは、士気の高かった日本を相手に、0-1という最少得点差での勝利をあげた。シーズン終了直後(チャンピオンズリーグ決勝に出場した選手もいた)であり、アウェーで長旅後の連戦。しかも彼らにとっては極東の国々に勝っても大きな価値はない。その状況を考えれば、上々の「辛勝」と言える。

 ブラジル代表選手たちはジンガで、日本代表選手を凌駕していた。

 ブラジルの選手たちはあらゆる局面で、少しずつ日本の選手を上回っていた。その小さな積み重ねで押し込むことができたし、押し込むと彼らの自由な閃きがプレーにあふれ出した。縦パスが入るとフリックし、シュートまでつなげる。リズムの違いでマークをはがし、決定的なクロスを送る。トリッキーなヒールも、お手のものだった。

 彼らは日本が固めた中盤のラインを軽々と越えた。そしてゴール前で何度となく、日本の守備を崩し、シュートに持ち込んでいる。どんどんテンポが上がる動きは、音の重なり合いに似ていた。

 相手のリズムを読み取り、それに体をスイングさせ、次は上回ることもできた。守備でもジンガは顕著だった。

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