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門田博光が回想する村田兆治とのマンガの世界のような真剣勝負。「フォークの握りを見せてから放ってくることもあった」 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kyodo News

「どこでしゃべるんや? 試合前、近くにおったとしてももちろん素通りや。絶対に話なんかせえへんし、顔も合わさん。見るだけで崩れてしまうんや。これから戦う相手、ふだん戦っている相手となんでニコニコしながら話ができるんや。話なんかしたら、オレの性格上、戦えなくなるし、向こうもそう思うとったはずや」

 お互い現役を終えたあとに話すことはなかったのだろうか。

「食事なんかもちろん行ったことないし、対談なんかもしたことがない。ほんま兆治とはしゃべった記憶がないわ」

 門田の話には、時折、おそらく事実がつくられたであろうと思うものがあり、さすがに一言二言の会話はあったに違いない。だから正確には、しっかり話す機会がなかったということなのだろう。いずれにしても、今とは明らかに違う時代背景を想像しながら頷いていると、思い出したように「でも1回だけあったわ」と言ってきた。

「お互い20代の時に、四国の試合で兆治からホームランを打ったんや。彼にしたら100%狙いどおりの膝もとへのスライダーやったらしい。それをオレが腕を縮めて、体を回転させてスコーンとライトスタンドへ放り込んだ。これに兆治が『あのコースをホームランにされるのか』とえらいショックを受けて、そこからフォークを磨くようになったそうなんや。

 村田兆治にフォークを覚えさせたのはオレやという話なんやけど、これを本人から聞いたことがあった。『あのボールは失投じゃなかったんですよ』と。よそでもしゃべっとったらしいから、よほど悔しかったんやろうな。でも、兆治としゃべったのはその時だけや」

 この村田からの技ありの一発は門田のお気に入りのエピソードで、これまで何度も聞いたことがあった。ただ門田が村田と会話をした記憶は、この一回限りだというのは初めて聞いた。

 ちなみに引退後、名球会のイベントでも会話をした記憶はないと門田は言った。

「入会して、4年もしたらオレが名球会のイベントに顔を出さんようになったから、いよいよ話をする機会はなしや」

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