【平成の名力士列伝:琴ノ若】愚直な相撲道を貫いた美男力士としての歩みと長男・琴櫻が果たした大関昇進
端正な顔立ちと粘り強い相撲道で人気を博した琴ノ若 photo by Jiji Press
連載・平成の名力士列伝19:琴ノ若
平成とともに訪れた空前の大相撲ブーム。新たな時代を感じさせる個性あふれる力士たちの勇姿は、連綿と時代をつなぎ、今もなお多くの人々の記憶に残っている。
そんな平成を代表する力士を振り返る連載。今回は、「美男力士」という華やかなイメージと相撲への愚直なまでの姿勢を兼備し、長く人気を博した琴ノ若を紹介する。
【人気力士でも番付は同学年の琴錦に差をつけられ......】
191センチの長身で、鼻筋の通った端正な顔立ち。表情は穏やかで、温かく、優しげな雰囲気が漂う。「イケメン」という言葉が生まれる少し前の平成時代初期、相撲界の美男力士の代表格だったのが、琴ノ若だ。
その評判は相撲界のみにとどまらず、ある雑誌で企画したスポーツの「いい男」の特集号では、野球、サッカー、バレーボールなど数多の競技を押しのけて表紙に選ばれている。ただし、人気を集めた理由は外見ばかりではない。決して器用ではないが、真っすぐに泥臭く相撲と向き合い、長く土俵を務めた名力士だった。
昭和43(1968)年生まれで山形県尾花沢市出身。子どもの頃から体が大きく、相撲の県大会で優勝。力士になるつもりはなかったが、元横綱・琴櫻の佐渡ケ嶽親方の熱心なスカウトに押しきられて入門し、昭和59(1984)年5月場所で初土俵を踏んだ。
幕下の頃に琴の若(のち琴乃若、琴ノ若)と改名し、着実に力をつけて平成2(1990)年7月場所、22歳で新十両に昇進すると、十両はわずか2場所で通過して、同年11月場所で新入幕を果たした。
長身で懐が深く、突き起こして右を差し、左上手を取って出るスケールの大きな相撲に加え、端正な顔立ちで人気力士となったが、なかなか幕内上位には定着できなかった。
対照的だったのは、同じ佐渡ケ嶽部屋で同学年の琴錦だ。こちらは負けん気が強く、上背には恵まれないが、抜群のスピードと切れ味鋭い技でたちまち番付を駆け上がり、琴の若が幕内に上がるころには、すでに横綱・大関もしばしば倒し、三賞の常連に。小結から関脇へと駆け上がって大関候補と目され、平幕優勝も経験していた。
そんな琴錦より体格に恵まれている琴ノ若がなかなか幕内上位で活躍できないことが、物足りなく感じられていたのだ。
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著者プロフィール
十枝慶二 (とえだ・けいじ)
1966(昭和41)年生まれ、東京都出身。京都大学時代は相撲部に所属し、全国国公立大学対抗相撲大会個人戦で2連覇を果たす 。卒業後はベースボール・マガジン社に勤務し「月刊相撲」「月刊VANVAN相撲界」を編集。両誌の編集長も務め、約7年間勤務後に退社。教育関連企業での7年間の勤務を経て、フリーに。「月刊相撲」で、連載「相撲観戦がもっと楽しくなる 技の世界」、連載「アマ翔る!」(アマチュア相撲訪問記)などを執筆。著書に『だれかに話したくなる相撲のはなし』(海竜社)。