錦織圭「最後まで負けず嫌いが消えなくてよかった」 涙の引退試合、これ以上ない幸福なキャリアの終え方 (3ページ目)
【トップ10に入るくらい悔しい】
最後となる錦織との対戦で、ティアフォーはその「悪夢」に自ら挑むかのように、バックハンドのクロスラリーを多く重ねた。マッチポイントでは、まるでふたりの時間を惜しむかのように、バックの打ち合いを続ける。
そして20回に及ぶ濃密なラリーの末に、ティアフォーが柔らかなドロップボレーをネット際に沈める。その行方を必死に追う錦織は、目の前で柔らかく二度弾むボールを、うなだれて見届けた。
キャップを脱いだ錦織は、小走りにネット際へと駆けつけるティアフォーと固くハグを交わす。勝ち名乗りとファンの声援を受けるティアフォーは、軽くラケットを掲げると、すっとその手をベンチに座る錦織へと向ける。試合後恒例のカメラサインでは、「It's Kei Day」と書き込んだ。
これが本当に最後のポストマッチインタビュー。「負けず嫌い」であることの意義を尋ねた時、錦織は次のように答えた。
「正直、20代の頃は、年に2回くらいは試合に負けて泣いていた。ツアーファイナルズでも、負けて部屋で号泣してたんで......いい大人が。なので、そういう悔しさは常にありましたし、反動を使って練習をがんばったり、あきらめずに試合したので、すごく助けられたと思います。
まあ、今は若干薄れて、負けてもいい意味で冷静に試合内容を振り返れたり、そこまでアップダウンがなくなってきたのは、年齢のおかげもあるだろうし。そこは30代になって、ちょっと変わってきたところではありますけど。今日も最後の試合なのに、やっぱりトップ10に入るくらいの悔しい終わり方でしたね」
最後の最後まで悔しい──。それはどこか切ないが、これ以上ない、幸福なキャリアの終え方なのではとも思う。オンコートでのスピーチの最後で、彼はこうも言っている。
「最後まで、負けず嫌いが消えなくてよかったなって思います。最後の最後まであきらめずにプレーできたのが、自分の誇りかなと思います」
反骨精神をたぎらせ、誇りを胸に刻み、彼は大好きなテニスコートをあとにした。
著者プロフィール
内田 暁 (うちだ・あかつき)
編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。
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