プロ野球トライアウトに現れた「左腕ナックルボーラー」は何者なんだ?

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami shirt
  • 祐實知明●写真 photo by Sukezane Tomoaki

 ナックルボール――この響きには、子どもの頃に原っぱで楽しんだボール遊びの風景や、野球マンガのドラマチックな対決場面を思い浮かばせるものがある。同じ変化球でも、スライダーやカーブとは明らかに性質が違う。なんといっても不規則に揺れて落ちるボールは投げ手さえもどこにいくのかわからないのだから、まさに「魔球」と呼ぶにふさわしいボールである。

 その「魔球」に野球人生を懸けるサウスポーがいる。昨シーズン限りで現役を引退し、今年は前所属チームのロッテで打撃投手(途中から用具係を兼務)を務めた植松優友だ。

打者3人に対し、無安打、1奪三振と好投した植松優友打者3人に対し、無安打、1奪三振と好投した植松優友 11月12日に甲子園球場で行なわれたトライアウトで28番目の投手として登板すると、カウント1-1から始まるシート打撃の初球、スコアボードに表示された球速は114キロ(ストライク)だった。2球目は118キロ(ボール)、そして3球目は内角寄りの111キロの球で原拓也(前オリックス)をピッチャーゴロに打ち取った。

 続く大坂谷啓生(おおさかや・ひろき/元楽天)にも117キロ、117キロとして、最後が134キロ。しかし、すべてストライクゾーンから外れフォアボール。

 最後の対決となった佐藤貴規(元ヤクルト)には、111キロ(ボール)、115キロ(ストライクのあと、最後は116キロで空振りに仕留めた。

 この日集まった1万人を超えるファンのなかには、その球速表示に「故障でも抱えているのか?」と思った人もいただろう。ただ、1球を除き、球速が120キロに届かなかったボールは、いずれも捕手がミットをせわしく上下させ、いかにも捕りづらそうにしていた。その姿を見れば、そのボールが「特殊なボール」であると気づいた人もいたに違いない。

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