【MLB】ドジャース・山本由伸はABS(判定チャレンジ制度)時代にスプリットをどう進化させたのか (3ページ目)
【打者との駆け引きにおける工夫】
ABSによって低めの判定が厳密になった。それに対してスプリットを封印するのではなく、使うカウントと場所を広げ、その役割を変えた。そしてスプリットを意識する打者に対しては、直球をより有効に使う。どれだけスプリットで空振りを奪うかではない。どのカウントで、どこへ投げ、次に何を意識させるのか。同じスプリットでも、カウントによって役割を変える。その使い分けこそ、ABS元年に山本が見せた工夫のひとつだった。
その技術を高く評価しているのは、オールスター選出10度のフリーマンだけではない。ドジャースのチームドクター、ニール・エラトロッシュ医師は興味深いエピソードを明かしている。
2025年春、当時リハビリ中だったクレイトン・カーショーが遠投を終え、その投球を医師が称賛した時のことだ。カーショーは自分への賛辞をそのまま受け取らず、こう返したという。
「本当に特別なものを見たいなら、ヤマモトの投球を見てみてください」
自らが褒められた場面で、カーショーは山本へ話を向けた。オールスター選出11度、サイ・ヤング賞受賞3度を誇る左腕の言葉だけに重みがある。
山本の何がそれほど特別なのか。
その答えのひとつが、多彩な球種を狙った場所へ投げ分けるだけでなく、状況によって同じ球種の役割まで変えられる制球力なのだろう。フリーマンが言う「投げたいところへ自在に投げられる」能力は、ただ同じことを繰り返して生まれたものではない。ストライクゾーンが変われば、自らも変える。得意のスプリットで以前ほど空振りが取れなくても、使い方を変え、ほかの球種との関係を変え、打者の意識まで利用する。ABS元年、山本はそんな適応力を見せた。
いよいよ始まるポストシーズン。山本の登板では三振や球速だけでなく、もうひとつ注目してみたい。低めへ落ちるスプリットを、どのカウントで使うのか。それを打者がどれだけ振るのか。そして、そのスプリットを意識させたうえで、山本が直球をどこへ投げるのか。その駆け引きのなかに、今季の山本の「工夫」が見えてくるはずだ。
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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