誰も真似できないファーガソン流マネジメント

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】アレックス・ファーガソンの自伝を読む(後編)

 新しい自伝の中で、アレックス・ファーガソンはフットボールの戦術についてほとんど語っていない。この点は、彼が監督として優れているのは人の心をつかむことだけではないかという疑念を強めてしまう。

 2008~09シーズンと2010~11シーズンのチャンピオンズリーグ決勝で、マンチェスター・ユナイテッドはいずれもバルセロナと対戦して敗れた。あの2試合はもっと守備的に戦うべきだったろうかと、ファーガソンは考える。いや、守備的な戦いはユナイテッドがやるべきものではなかったと彼は言う。それは「私にとって拷問であり、ファンを地獄に突き落とす」からだ。「むしろいつもより積極的にやりたかった。......そんな気持ちのぶれも敗因だったかもしれない」

マンチェスター市内にはファーガソンの名を冠した道路が。引退した今もファンからは絶大な人気を誇る(photo by GettyImages)マンチェスター市内にはファーガソンの名を冠した道路が。引退した今もファンからは絶大な人気を誇る(photo by GettyImages) しかし、ファーガソンの「洞察力」には拍子抜けさせられることもある。たとえば、彼の選手に対する評価基準はこんな感じだ。「境界線は常にここだ──彼らに何ができて、何ができないのか」

 この自伝はファーガソンのプライベートな面について教えてくれる。彼によれば、夫人のキャシーの姉が昨年のクリスマスに死去したとき、夫人と共に過ごす時間をさらに大切にしようと思ったことが、監督勇退を決断する要因のひとつになった。趣味については「競馬を通じて、私は頭を切り換えることを学んだ。読書からもワインの買い付けからも。そうしたプライベートな部分が1997年ごろからふくらんでいった。壁にぶち当たり、フットボールから離れる時間が必要だと思いはじめていた」。

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